米国で深刻化するフィッシング問題に、金融当局が動き出した。連邦金融機関検査委員会が、オンラインバンキングにおいてIDとパスワード認証だけでは不十分だとして、2006年3月末までに2つ以上の認証方法を採用するようガイドラインを策定したのだ。このガイドラインの策定に伴い、米国では新たな認証技術を提供しようと各企業がさまざまなソリューションを提案している。
こうしたソリューションを提供する企業のひとつに、PassMark Securityがある。同社は2004年2月に設立されたばかりの新興企業だが、フィッシング対策として新たな認証技術を提案し、2005年5月には米国で1400万人という最大級のオンラインバンキングユーザーを抱えるBank of Americaにて採用されることが決定した。PassMarkの国際セールスディレクターTim Harris氏は、同社のコンセプトが「オンラインバンキングにおいて、簡単で低コストな認証サービスを提供することにある」と述べている。
- PassMark SecurityのHarris氏。「パスワード」と「パスマーク」で安全なオンライン取引をアピールする
2つ以上の認証方法が求められる中、個人が設定したパスワード以外の認証システムとしてよく知られているのがハードウェアトークンだ。ハードウェアトークンは、例えばワンタイムパスワードを発行するような暗号機能を持った携帯用のデバイスで、RSAセキュリティのSecureIDなどがこれにあたる。
Harris氏はこうした認証方法をオンラインバンキングシステムに導入することについて、「デバイスを用意する必要があるため、膨大な費用がかかる」と指摘する。「ハードウェアトークンは、大量注文で安価になった場合でも1個につき7ドル程度のコストがかかる。PassMarkのソリューションは、規模にもよるが25セントから数ドル程度での提供が可能だ」とHarris氏。また同氏は、「トークンの場合、ユーザーが常に持ち歩く必要があることはもちろん、毎回異なるパスワードを入力する必要があるため手間がかかる」とし、同社の提供するソリューションの優位性を説明した。
PassMarkでは、オンラインバンキングにてパスワードと「パスマーク」を認証方法に取り入れるソリューションを提供している。パスワードはユーザーの選んだ記号や数字の組み合わせによって認証手続きをするものだが、パスマークはユーザーの選んだマーク、つまり画像によって認証手続きを行う。
同社の提供するソリューションの仕組みはこうだ。まずユーザーは、オンラインバンキングに最初にアクセスする際、1万以上の画像の中から好みの画像を選択する。その際、PCを特定するデバイスIDが発行され、Cookieなどに自動的に組み込まれる。その後ユーザーが銀行のサイトにアクセスする際には、必ずユーザーが選択した画像が表示され、サイトが偽物でないことを証明する。正しいサイトにアクセスした場合のみユーザーの選んだ画像が表示されるので、フィッシングが防げるというわけだ。
このソリューションでは、ユーザーがオンラインバンキングに利用するPCそのものが認証デバイスとなっている。初回アクセス時に発行されるデバイスIDには、PCのスクリーン解像度やソフトウェアのバージョン、IPアドレスなどの情報がひも付けられ、万が一ユーザーが普段PCを利用する場所とは別の場所からオンラインバンキングを利用しようとした場合や、通常1カ月に一度しかオンラインバンキングを利用しないユーザーが1日に何十回もアクセスするなど違ったパターンが見受けられる場合には、「母親の旧姓は何ですか?」といった別の質問を投げかけたり、ユーザーの携帯電話にアラートを送ったりすることで、第三者からのアクセスを防止する。
PassMarkでは、2006年にも日本進出を実現すべく準備を進めている。Harris氏は、「日本市場でのチャンスは大きい」と語る。「日本はオンラインバンキングが浸透しはじめたばかりで、安全な取引ができるシステムへの需要が高まりつつあるところだ。欧州ではすでにオンラインバンキングが浸透しているが、より高度なセキュリティを求めてハードウェアトークンを導入し、ユーザーがオンラインバンキングサービスに年間50ドル程度を支払っているケースもある。パスワード以外のソリューションが浸透していない日本こそ、安価で高セキュリティのソリューションを提案するには最適なマーケットだ」(Harris氏)