今後の技術革新で期待されるもの
現在ESPを単独で実現できるツールはない。したがって、実際にESPを構築する際にはいくつかの製品を組み合わせることでESPというコンセプトを実現することになる。
ただし、現在のツールに決定的に不足している機能がいくつかある。以下にそれらの機能を列挙する。ESPの構築の際にはこれらの機能への対応をどうするかに十分に配慮をしたい。
情報評価の方法
情報を評価し、優先順位付けする機能については、インターネットの世界では、Googleがページランクという新しい概念を開発し、提唱した。しかし企業内ではリンクが多い情報を検索結果の上位に表示することが必ずしもよいとは言えなさそうである。企業のトップページや部門のトップページは通常、イントラネット内で多数のページからリンクが貼られているが、これはそこにある情報の価値を意味するとは限らない。
現在では検索キーワードの頻出度合いに応じた表示が一般的であるが、残念ながらこれでは十分だとはいえない。企業内の文書では、1文書の中の語句数には文書ごとに大きな差があるのでこれを単純に出現頻度でカウントすると上位には長い文書ばかりが並ぶことになってしまう。
ESPではこの情報評価の部分の見直しが期待される。情報評価の方法としては、たとえば過去の検索で実際にユーザーがクリックした情報に高い優先順位を与える方法や、報告書やレポートは議事録やメモより評価を高めるといった文書の種類を評価に加える方法などが考えられる。
また、amazon.comなどで採用されているリコメンデーションのような機能の取り込みも有用であろう。いずれにしてもこの分野ではまだ正解が見つかっておらず、場合によっては、これを見つけたものがESPという分野の勝者になるかもしれない。
派生文書における作成者・所有者の定義
他にも多くの企業内ドキュメントは、雛形文書を複製して作成されるために、文書プロパティは元の文書の複製であることが多い。正確な作成者・所有者の定義とその管理は、文書の作成者を検索するには必須条件となる。複製コピーで作成されるという状況では、検索結果の表示の場合に同じ文書からの派生文書であることの表示やそれら文書間の相違部分の表示も必要になりそうだ。
第4回や第5回で触れたようなアクセス制御の実現のためにはユーザー管理機能の実装やディレクトリサービスとの密な連携も必要であり、社外のインターネット上の検索までを統合するためのWebサービスへの対応なども将来的には必要な機能となる。
日本においては数年前に1度企業内での検索エンジンブームが盛り上がり、すでに検索エンジンを導入済みの企業も多い。かつてテレビや車が1家に1台から複数台の時代へと変わったように、検索エンジンも1企業に1つの時代から2つ以上の時代へと変化することは容易に予測できる。ESPは単機能な検索エンジンに代わってユーザーの利便性と生産性向上をもたらすことを目的として企業内の検索機能を統合し、セキュリティとスケーラビリティを持った新しい基盤といえるだろう。
みずほ情報総研 吉川日出行
技術士(情報工学部門)・ITコーディネータ