XMLベースのファイル形式が与える影響は?
UIの変更に加えて、Office 12のもうひとつの大きなトピックは、標準でXML形式のファイルフォーマットを採用した点だ。
新たに採用されるXMLベースの文書ファイルは、コンテンツに関する複数のXMLデータをZIP形式で圧縮したものとなっている。MDCにおいては、Wordで出力した「.docx」というファイルを.zipにリネームして解凍した上で、文書の背景グラフィックに関するXMLデータだけを別のものに変更。再度圧縮してリネームし、再びWordで開くと、きちんと背景が変更されている様子をデモし、純粋にXMLベースの文書ファイルになっている点を強調した。
Office 12で採用されるXMLベースのファイル形式は「Microsoft Office Open XMLフォーマット」と呼ばれている。現在、標準化団体であるECMAへ提出されており、将来的にはISOによる標準化を目指すという。
例えば10年前であれば、こうした「ファイル形式のオープン化」は考えづらいことだった。各社のワープロソフトや表計算ソフトが市場に多数存在した時代において、あるソフトに固有のファイル形式は、そのソフトを利用しているユーザーを自社製品につなぎ止め、さらにそのユーザーの周りにいる人々に、その製品を使ってもらうことによって製品シェアを拡大するための重要な要素だったからだ。現状、オフィスアプリケーション市場において、ほぼ独占的と言ってもよいシェアを持つマイクロソフトにとって、XMLベースのファイル形式を採用し、そのフォーマットをオープンにしようとする動きには、どのような意図があるのだろうか。
沼本氏は、その理由について「顧客指向で考えた結果だ」と説明する。
「オフィスアプリケーションに対してユーザーが求めるものは、この10年で大きく変化した。もはや、昔のように画面上でタイプして、最終的には印刷を行って紙にするといったドキュメントプロセスの時代ではない。アプリケーションで作ったドキュメントはユーザーのものであり、ユーザーはをそれを自由に使えるべき。ユーザーがデータを自由に使い、かつ、我々の提供するソリューションを有効に活用してもらえるように、XMLという相互運用性の高く、透明性の高いフォーマットを採用した。ドキュメントとデータの境界はXMLの世界ではシームレスになる。業務システムとOffice文書を統合できる形で混在可能な環境を作るためのひとつのベースがXMLだ」(沼本氏)
XMLによるオフィスドキュメントのオープンなファイル形式としては、サン・マイクロシステムズやIBMが推進する「OpenDocumentフォーマット」(オープンソースのオフィスアプリケーションであるOpenOffice.orgのファイル形式)が先行している。マイクロソフトがファイル形式のオープン化を決断するに当たっては、このOpenDocumentの存在も少なからず影響を与えたことは間違いないだろう。Office 12においてOpenDocumentを採用せず、あえて自社による新たなXMLフォーマットを標準化しようとする背景には、オフィスアプリケーションの膨大なインストールベースを抱える同社が、この分野におけるコントローラビリティの維持とオープン化のはざまでせめぎ合っている様子も垣間見える。
ファイル形式のオープン化によって、アプリケーションの選択肢がマイクロソフト製品以外にも広がるのではないかという質問に対して、沼本氏は「まったくリスクフリーかと言われればそうではないかもしれない」と答えた。ただ、マイクロソフトとしては、アプリケーションに対して、さらに機能を追加し、ユーザビリティを向上させることで、フロントエンドとしてのOfficeアプリケーションの価値を高めていくという。
「新たなテクノロジーをインプリメントすることによって、ユーザーにニューワールドワークに入ってきてもらうことがマイクロソフトの使命であり、ユーザーもそれを求めている。多少のリスクがあろうとも、常に前へ向かって走っていく責任が、われわれにはあると考えている」(沼本氏)