長期的な戦略と予算化がSOAには有効
SOAは、アプリケーション間の相互運用性と接続性を容易にするための考え方あり、有力なアプローチなのひとつだが、既存のアプリケーションを全く作り直すことなく、すべて再利用できるかといえば必ずしもそうではない。
「SOAを使ったからといって、既存のアプリケーションを全く手直しすることなく適切に再利用できるということは幻想だと思った方がいい。ビジネスの前提が変化したときに、アプリケーションを修正せずに利用することはいかにSOAでも無理がある。あくまでも再利用できる可能性を高めることができるという認識を持つことが重要だ」(飯島氏)
短期的にはSOAによるアプリケーション統合を実現し、長期的には基幹システムは再構築することを視野に入れた取り組みや予算化を行うことが有効になるというのが飯島氏の主張だ。中でも予算化は重要で、企業においてIT予算はそれほど急激な増加は見込めないため、いかに予算を確保するかもSOA実現の重要なポイントになる。
SOAの実装で期待される効果は、「コストの削減」「生産性の向上」「いかに経営に直結するか」の大きく3つ。「当初はコスト削減に対する期待が大きかったのだが、だんだんと企業の競争優位性にいかに効果があるかということに期待が移り変わっているのも事実」と飯島氏は言う。
ここでいうコスト削減は、ITコストの削減はもちろん、人件費や業務時間など業務上必要なコストの削減も含んでいる。飯島氏は、「経営者の観点では、興味の分野がTCO(総保有コスト)からROI(投資利益率)へと変化していると言える」と話している。
“SOAありき”ではない取り組みが重要
SOA実装の年と言われている2006年、SOAを実装するためにユーザー企業は何をしなければならないのか。飯島氏は、「まず業務の棚卸しが必要になる」と話している。
「すでにやっているという企業が多いかもしれないが、実は業務の棚卸しを体系立て、しかも定期的にやっている企業は実は少ない。恒常的に業務分析ができる組織を確立することがSOA実現の第一歩となる」(飯島氏)
サービスやビジネスは常に変化するが、その中にも変化する部分と変化しない部分がある。常に変化する部分を見極めることで、変化にいかに対応すれば効果的かを明確にすることができる。
「“SOAありき”ではない取り組みが重要なポイント。SOAの実装に必要な優秀な人材は得てして忙しい人たちなので、SOAの導入にあわせてこのような体制を確立しようとしても間に合わないことが多い。日ごろから業務の棚卸が可能なフレキシブルでバーチャルな体制を確立しておくことが望ましい」(飯島氏)
このような体制が確立できたら、次の段階としてインフラの整備が重要になる。SOAの実現では、基盤設計をきっちりと行わないとアプリケーションを効率的に統合することはできない。
「開発した個々のアプリケーションをいかに統合するかを考えるのではなく、SOAインフラを構築してその上で個々のアプリケーションをいかに稼働させるかを考えた方が、システム全体がより高品質になる」と飯島氏。
まずSOAインフラを構築することで、アプリケーション開発においてインフラ部分を意識することなくビジネスロジックだけに集中することができる。これにより開発生産性も格段に向上し、設計におけるテクノロジーの敷居を下げることも可能。最適なサービスの粒度も導き出すこともできる。
「SOAを実現することが最終的な目的ではなく、変化するビジネス環境に柔軟かつ迅速に対応できる仕組みを実現することが最大の目的。その仕組みがたまたまSOAだったという実装が理想だろう」(飯島氏)