社会的、経済的に困難な状況にある女性の自立を支援--マイクロソフトとNPOが協力

山下竜大(編集部)

2006-05-11 01:48

 全国女性会館協議会、特定非営利活動法人全国女性シェルターネットおよびマイクロソフトは5月10日、母子家庭の女性やDV(ドメスティックバイオレンス)の被害を受けた女性など、社会的、経済的に困難な状況にある女性の自立を支援する「女性のためのUP(Unlimited Potential)プログラム全国版」を実施することを発表した。

 女性のためのUPプログラム全国版は、全国の女性会館(男女共同参画センター、女性センターなど)や民間シェルター(NPOなどの市民活動団体)などの対象団体に対し、IT講習や就労支援を実施することで、困難な状況にある女性の自立を支援するための基盤を強化し、行政や企業と連携した女性自立支援体制を整備することを目的としたもの。2006年1月より1年半の期間で実施される予定となっている。

 具体的な取り組みとしては、まず社会的、経済的に困難な状況にある女性のニーズや既存のIT講習を調査することにより現状を把握。IT講習や就労支援の内容および運営方法のマニュアルを作成し、各会員団体がIT講習や就労支援を実施する。IT講習や就労支援を実施した結果は、各団体により検証を行い、その結果を踏まえてマニュアルを改善し、全国に再配布する。

 これにより全国30〜40個所の女性会館および約140の民間シェルターにおいて約2000名の女性にIT講習および就労支援を行い、このうち約1割の女性の就労を実現することを目指している。

 マイクロソフトでは、2004年より特定非営利活動法人WING21と、2005年から財団法人横浜市男女共同参画推進協会および東京ボランティア・市民活動センターと協力することで、女性のためのUPプログラムを、まずは首都圏(東京都/神奈川県)において展開。約900名の女性にIT講習を実施し、その内約80名が就労を実現しているという。今回、この実績に基づいて、女性のためのUPプログラムを日本全国に展開することを決定している。

マイクロソフトのダレン・ヒューストン社長 「NPOにソフトウェアとサポートを提供することで、困難な状況にある女性のITスキル向上を支援する」とヒューストン社長。

 マイクロソフトの代表取締役社長であるダレン・ヒューストン氏は、「(政府が社会問題に関与しない方針である)米国では、個人やボランティア団体、NPOなそを中心に社会問題を解決することは当たり前の取り組みとなっている。日本でも同様の取り組みが実現されるようになってきた。われわれは、ITを通じて社会問題の解決に貢献していきたい」と話す。

 「景気は緩やかに向上しているものの、経済的に困難な状況にある女性の数も増えているのが現実だ。これは、スキルを持たない女性が多いために就職活動がままならないことが原因のひとつ。ITのスキルを身につけてもらうことで、女性の自立を支援することができる」(ヒューストン氏)

 これらの取り組みは、マイクロソフトが今後3年間の企業活動の基盤となる経営方針として発表した「Plan-J」戦略に基づくもの。Plan-Jは、「日本における投資の拡大」「企業およびコンシューマにおける技術革新の促進」「政府機関、教育機関、NPOおよび産業界とのより深く明確なパートナーシップ」の3つの柱で実現される。

 また、Plan-J戦略の取り組みのひとつとして、2006年4月21日にNPOにおけるデジタルデバイド(情報格差)の解消を目的とした支援策「NPO-J」を発表。2002年より4回実施してきた「マイクロソフトNPO支援プログラム」の拡充や、ITスキルの習得を目指す「デジタルリテラシーカリキュラム」の実施、IT活用の啓発の場となる「NPO Day」の開催、IT活用を促進する「NPOパートナーシッププログラム」の展開という3つの取り組みを推進している。

内閣府の定塚由美子氏 「DV被害者の支援をさらに進めていきたい」と定塚氏。
 内閣府男女共同参画局推進課長である定塚由美子氏は、「内閣府では、2020年には(日本の指導的立場を含む)女性の管理職の割合を30%以上にする“上へのチャレンジ”、科学技術研究者等従来女性の活躍が少なかった分野への女性の進出を支援する“横へのチャレンジ”、出産によりリタイアした70%の女性の社会復帰を可能にする“再チャレンジ”の3つの取り組みを推進している」と言う。

 「2001年4月の“配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)”の施行により、関連団体やNPOなどと協力して女性たちの支援を実施してきた。まだまだ施策は十分とはいえないとの声もあるが、引き続き支援を継続していきたい。そのためには、マイクロソフトなど民間企業の協力が不可欠になる。外資系だけでなく、国内企業の参加も期待している」(定塚氏)

 内閣府の調査では、DV被害女性は1999年以降大幅に増加し、2005年にはおよそ3人に1人の女性が夫から暴力を受けていると報告されている。この女性たちが離婚を踏みとどまった最大の理由が「経済的不安」(27.7%)という。厚生労働省の調査では、2003年の母子家庭世帯数は5年前に比べて28.3%増加しており、母子家庭の平均所得は233万円と一般世帯の平均所得589万円を大幅に下回っており、独立が困難な状況となっている。

 ヒューストン氏は、「ITは企業が利益を得るだけの道具ではなく、社会を変革していくための手段でもあるべきだ。そのための取り組みのひとつがNPO-Jとなる。マイクロソフトは、社会や経済にどのような変化があろうともNPOに対する支援を継続していく覚悟だ」と話している。

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