日本でもおなじみのThe Estee Lauder Companiesは、24の製品ブランドを持ち、年平均6000の新製品を投入している大手化粧品メーカーだ。同社でIT部門を担当するSteve Tieman氏は2005年5月より、ビジネスプロセス主導のITシステム構築に変革させるプロジェクトを開始した。きっかけは、リスク統制とコストの削減、規制遵守の2つだ。2つとも企業共通の課題だが、同社の場合はBPMの実行を解決策とした。
The Estee Lauder Companiesでは、SAPの業務アプリケーションを導入していることから、SAPの管理パラメータ「Solutiona Manager」とIDS ScheerのBPMプラットフォーム「ARIS Platform」を利用するプロジェクトをスタートした。「少なくとも米国では先進的な事例だと思う」とTieman氏は胸を張る。
同社は、ARISとSAPのSolution Managerを統合してビジネスプロセスの“コマンドセンター”とし、SAPアプリケーションはSolution Managerを、非SAPアプリケーションはWebMethodを経由でARISと接続するという設計図を描いた。これを実現することで、システム統合という点では、アプリケーションの数は約750から200に、インターフェイスの数は約3500から200以下に減ったという。
全体のプロセスマップ作成では、EPC(Event Process Chain)レベルからプロセスモデリングを開始し、7レイヤ構成にした。約120あるEPCダイアグラムは、約1500のイベント、600以上のプロセス間のリンク(タッチポイント)を持っている。
レイヤのうち上から3つ目までは業界標準のSCOR(Supply Chain Operations Reference Model)を用い、それ以降の下位レベルではSolution Managerのものを利用した。このように上位レベルでモデリングを開始したことにより、「全体図を把握しやすいTo Beモデルの作成につながった」とTieman氏は話している。
このモデリング作業は、ビジネスアナリストを含む20人が4チームに分かれ、約4カ月で実現した。ARISとSolution Managerとの同期はプロジェクトの要といえ、これにより「BPMのメリットを最大限に享受できる」とTieman氏は薦める。また、ビジネスプロセスに番号をつけることも、コツとして伝授してくれた。
プロジェクト開始当初、“To Be”プロセスの明確な定義、SAPと非SAPアプリケーション間の効果的なリンク、BPMのサイクルを確実に回すことなど、具体的な目標を立てたが、中でもプロセスマップの作成と効果的な活用を継続的に行うことには重点を置いたとTieman氏は話している。
プロジェクトの開始から約1年が経過し、現在約500人が試験利用している。来月にはインテグレーションテストに入り、本格稼動は2006年11月を計画している。同氏はこれまでの経過と現在の状態に満足しているという。Tieman氏は「ARISを使うことで、プロセス、インターフェイスなどに分かれた各チームを結びつけることもできた」と話している。