求職者の失業期間短縮をBPMで実現--オーストリア就職斡旋機関AMS

末岡洋子 2006年06月13日 14時42分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 BPMのメリットを感じているのは民間企業だけではない。日本のハローワークにあたる、オーストリアの経済労働省労働市場局(AMS)は、従業員4300人、首都ウイーンを含み9県100地区にオフィスを持つ就職斡旋機関だ。

 他の先進国同様、高い失業率に悩まされているオーストリア政府は、求職者と求人の素早いマッチングを課題のひとつとした。同局でITを担当するHerbert Bohm氏は、顧客(求職者と求人企業)が主導のプロセス主導型へITシステムを変革させようと、2008年までの長期計画で挑んでいる。

 同氏が率いるプロジェクトチームは、プロセス主導型のシステム実現にあたり、求職者と仕事のマッチング、求人企業のサポート、公共への情報提供の3つのプロセスを重視した。また、自分で求人情報を検索できるセルフサービス形式を増やし、システム側ではデータウェアハウス、スコアカード、シックスシグマなどの管理システムを強化している。

 セルフサービスが機能するためには、求人情報、求職者情報の情報の質は非常に重要だ。就職斡旋は、求職者情報と求人情報のデータベースのマッチングといえ、2つのデータベースの間で各種アプリケーションが動いている。ここを高速にすることで、求職者が職に就くまでの期間(失業期間)を縮小できる。

 実際、失業期間が長いほど再就職は難しくなるので、求職者のキャリアにとってこの期間が短いことは重要だ。もちろん、失業手当などの政府の出費を抑えることにもつながる。

AMSのシステム構成図 AMSでは、IDS Scheerの「ARIS Platform」を導入してBPMを実現している。

 そのために同局は、まず組織再編から着手した。顧客とのチャネルを情報提供(コールセンター、セルフサービス、スペースの提供)、サービス提供(求人情報に応募などの手続き/サポート)、コンサルティング(長期求職者向け)の3段階(マルチチャネル)に分け、スタッフはこれまで以上に顧客に対面し、より深く関わるようにした。また、専門知識を持つスタッフを有効に活用できよう、適材適所に心かげて再配置している。

 「組織改変などというと、従業員の間では解雇を気にする声も出てきて、いやな雰囲気がでてくる。われわれが何をやろうとしているのか、最終目標はなにか、どのような手順で行うのか、これらを短く紙にまとめたものを配布し、ビジョンの周知徹底に務めた」とBohm氏は語る。

 システム側では、組織開発のためのガイドライン作成からスタート。同局では、失業手当てシステムですでにIDS ScheerのBPMプラットフォーム「ARIS Platform」を導入していたことから、ARISを使って全体のBPMを行うことにした。

 このシステムでは、2000年にコアプロセスのモデル定義からスタートし、現在、コアプロセス、サポートプロセス、運行ステップ、アクティビティ、アクションの定義、詳細レベルでのIT要件定義などを終えている。BPMの実装は、「ワークフローを円滑にし、紙の利用が削減、必要な従業員の再定義、アプリケーション間のデータ重複の削減、推進してきたマルチチャネル戦略の強化などのメリットをもたらした」とBohm氏は言う。

 プロジェクトでは、顧客の問題解決、プロセス主導を念頭に、顧客の細かなセグメントに対応することを目指した。実際、すでに効果は現れている。生産性は向上し、同じ従業員数で、求職者数も大きく変化していないが、求職者と求人側のマッチング活動は1999年の2倍以上に増えている。

 課題のひとつとなっていた長期失業者数は減り、顧客の満足度、従業員の満足度は改善したという。「BPMにより、組織全体レベルで責任の所在が明確になったことも、生産性改善につながった」とBohm氏は話している。

 同氏は、「成功のかぎは、人と技術インフラ」と言う。“上層部のコミットは不可欠”というのはBPMではよくいわれているが、AMSは従業員全員に対するケアを重視していることが印象的な事例といえる。Bohm氏は、上層部のコミット以上に下位レベルのサポートを重視し、「先走りしすぎない」とアドバイスする。また、必要に応じて外部の専門家を利用し、社内の専門家とのバランスをとることも重要だとしている。

 2006年1月時点、同国の失業率は5.1%、EU25カ国の平均値8.4%を下回り、低い順からトップグループに入った。現在の目標はトップ3に入ること。具体的には、25歳以下の若者と45歳以上の中高齢者の雇用増、女性の再就職、長期失業者の削減を目標に掲げている。

ZDNet Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んだ方に

関連キーワード
経営

関連ホワイトペーパー

連載

CIO
シェアリングエコノミーの衝撃
デジタル“失敗学”
コンサルティング現場のカラクリ
Rethink Internet:インターネット再考
インシデントをもたらすヒューマンエラー
トランザクションの今昔物語
エリック松永のデジタルIQ道場
研究現場から見たAI
Fintechの正体
米ZDNet編集長Larryの独り言
大木豊成「仕事で使うアップルのトリセツ」
山本雅史「ハードから読み解くITトレンド放談」
田中克己「展望2020年のIT企業」
松岡功「一言もの申す」
松岡功「今週の明言」
内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」
林 雅之「デジタル未来からの手紙」
谷川耕一「エンプラITならこれは知っとけ」
大河原克行「エンプラ徒然」
内製化とユーザー体験の関係
「プロジェクトマネジメント」の解き方
ITは「ひみつ道具」の夢を見る
セキュリティ
エンドポイントセキュリティの4つの「基礎」
企業セキュリティの歩き方
サイバーセキュリティ未来考
ネットワークセキュリティの要諦
セキュリティの論点
スペシャル
エンタープライズAIの隆盛
インシュアテックで変わる保険業界
顧客は勝手に育たない--MAツール導入の心得
「ひとり情シス」の本当のところ
ざっくり解決!SNS担当者お悩み相談室
生産性向上に効くビジネスITツール最前線
ざっくりわかるSNSマーケティング入門
課題解決のためのUI/UX
誰もが開発者になる時代 ~業務システム開発の現場を行く~
「Windows 10」法人導入の手引き
ソフトウェア開発パラダイムの進化
エンタープライズトレンド
10の事情
座談会@ZDNet
Dr.津田のクラウドトップガン対談
Gartner Symposium
IBM World of Watson
de:code
Sapphire Now
VMworld
Microsoft WPC
Microsoft Connect()
HPE Discover
Oracle OpenWorld
Dell Technologies World
AWS re:Invent
AWS Summit
PTC LiveWorx
吉田行男「より賢く活用するためのOSS最新動向」
古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」
中国ビジネス四方山話
ベトナムでビジネス
日本株展望
企業決算
このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]