ASPからオンデマンドへ、そしてSaaSへ - (page 2)

谷川耕一

2006-07-18 18:05

オンデマンドからSaaSへ

 オンデマンドとSaaSは、ほぼイコールの意味かもしれない。とはいえ、最近の使い方としては、さらに進化したASP型のサービスに対しSaaSという言葉を使うことがあるようだ。進化の最も顕著な部分は、カスタマイズの域を超え開発が可能なことだ。従来のオンデマンドでは、画面レイアウトや項目名の変更、あるいは制限された中で項目を追加するといった程度だった。

 また、すべてのアプリケーションをオンデマンド化できない現状では、既存のアプリケーションとの連携も必要だが、これまではCSV形式などのファイルでのやりとりが主流で洗練されたものとはいえなかった。これに対し、SaaSでは提供するアプリケーション側でさまざまなAPIが用意され、シームレスに既存のシステムと連携させたりオンデマンドアプリケーションに新たな機能の追加が可能となった。

 先に登場したSalesforce.comは、2005年9月にAppExchangeという新しいオンデマンドプラットフォームの提供を開始した。これは、Salesforceのオンデマンドサービスと同じインフラの上に、ユーザーやISVなどが自由にアプリケーションを構築できるプラットフォームのサービスだ。これにより、従来から提供されているCRMのオンデマンドアプリケーションに請求書発行機能を追加したり、既存の会計や人事システムとを連携させたりといったことが可能になる。さらに、「Exchange」とあるように他のユーザーが作成したアプリケーションの利用や、自ら作成したアプリケーションを他のユーザーが利用するというオンデマンドアプリケーションの交換の場も実現している。もちろん、Salesforce自体も、CRMを起点としたさまざまなアプリケーションを提供している。

 Oracleに買収されたSiebel Systemsが提供する「Siebel CRM OnDemand」サービスは、SaaS型のサービスであると同時にCRMパッケージとの連携や既存システムとの連携に強い。Siebelにはパッケージ製品で培った業界特化のソリューションがあり、それを顧客ニーズに合わせ、オンデマンドとパッケージの自由な組み合わせで提供する。最初はSaaSで初期コストを下げ短期間で導入し、利用しているうちに顧客独自の要求が高まれば必要に応じて機能追加や新たなパッケージの導入を進めるのだ。

 ERPパッケージベンダー最大手であるSAPも、「SAP CRM On-Demand」でこの分野に新たに進出している。機能としてはパッケージ版の「mySAP CRM」と同等のものを提供していくことになり、当然SAPが提供するERPパッケージとの連携が実現する。中小企業向けというよりは、ERPパッケージの導入を前提とした大規模、中堅企業をおもなターゲットとしている。

 画一的なアプリケーションを低品質のインターネット回線越しにしか提供できなかった初期のASPから、柔軟で顧客ニーズに合わせることも、連携して既存システムを生かすこともできる新しいSaaSへと大きく進化している。SaaSならば、仮に提供されているオンデマンドサービスに機能的な不満があっても機能を追加すればいい。多くのシステムをSaaSに移行できれば、自社でハードウェアやソフトウェアを用意する必要もなくなり、運用コストを大幅に削減できる。まさに、ソフトウェアを自ら所有するのではなく、サービスとして必要に応じて利用するという新しいITの形だ。

さらに進化するSaaS

 最近SaaSが注目される理由の1つに、SOX法などのコンプライアンスに対応するという目的がある。SOX法に対応するには、より高い信頼性の確保や、さらに厳しいセキュリティへの対応など、新たなシステム整備が求められる。十分に予算もリソースも確保できる大企業であれば、新たなシステム投資でそれを実現すればいいのだが、そうでない企業はいかに低コストでかつ早急にコンプライアンスを確保できるシステムを手に入れるかが課題となるためだ。

 きちんとしたベンダーが提供するSaaSならば、システムは堅牢なデータセンターにて運用され、セキュリティレベルも一般の企業では容易ではない高い基準をクリアするまでに強化されている。当然、十分なバックアップや詳細な作業ログを残す仕組みもある。SaaSを採用すれば、その部分は自動的にSOX法に対応しうるシステムとなるのだ。また、最近ではセキュリティ関連に特化したアプリケーションや機能を提供するベンダーがSaaS市場へ次々と参入してきている。これらを採用するのも、コンプライアンスの実現に有効な手段となる。

 SaaSの考え方は、さらに広がりを見せつつある。従来はベンダーがSaaSアプリケーションを提供していたが、複数のグループ企業でオンデマンド用のアプリケーションを導入してそれを共同で利用するという形式もでてきた。これなら、他社と共同で1つのサーバーを利用することに抵抗のある極めて重要な顧客データを扱うような企業でも、SaaSを利用できる。また、都道府県などの自治体のように、一般企業とは異なる要求仕様のシステムを共同開発し、それをオンデマンド化して共有することで開発コストや運用管理コストを大幅に削減する動きもある。

 SaaS市場の競争が激化するきっかけは、先のOracleによるSiebel買収もあるが、Microsoftの新たな取り組みも大きい。2005年11月に同社が発表した「Windows Live」や「Office Live」など新たなウェブベースのソフトウェアの利用形態は、今後ますますアプリケーションの「所有」から「利用」へのシフトを加速しそうだ。今後、多くのアプリケーションがSaaS化してくると思われる。とはいえ、すべてをオンデマンド化できるほどサービスは成熟してはいない。現段階では、SaaSの長所を生かせるように適切なサービスの選択がユーザーには求められる。

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