――ただ、「オープンソース」という文化の発展のためにも、ぜひ成功させてほしいですね。
そう、まさに、その通りなんです。もし、われわれがこれを成し遂げることができれば、オープンソースの世界に新しい地平が開けることになります。
――一方で、開発者に報酬を払うことを危惧し「やめておけ」とアドバイスする方々の心情も理解できます。
そうですね。だからこそ、無用な混乱を避けるために、まずは小さなところから始める予定です。たとえば貢献した開発者に、彼らが必要としている開発機材を提供するといったことです。Firefoxはマルチプラットフォームなソフトなので、こうした開発者は時に、複数のOS環境での動作を試す必要に迫られます。
また、契約を結んでその人たちを縛り付けるようなこともするつもりはありません。
ただ、われわれは貢献してくれた開発者たちの世話をする立場で、何ができるかを考え、それを実践していくつもりです。
「オープンソース+洗練」という難しさ
――最近インターネットでは、「オープンソースで作られたソフトは、機能は揃っていても仕上がりが悪い」という議論をよく見かけます。オープンソースのプロジェクトからは、たとえばAppleの「iLife」のような、使っていて気持ちのいい操作までは生まれてこない、という議論です。これについてはどう思われますか?
ええ、その議論は私もよく耳にします。確かにオープンソースプロジェクトでは、仕上がりまで完全なソフトを作り出すのは難しいと思います。それ以前にプログラムを完成させるだけでもかなり難しいのですから。
ただ、Firefoxでは、われわれは個人向けの製品を目指しました。そして、そうした個人製品を作り、本当に人々に使ってもらいたいと思っているのであれば、製品で何ができるのかというだけでなく、こうした仕上げの品質の部分にもこだわっていかなければなりません。
いや、あるいは、もしかしたら、仕上げの品質以外にも個人が重視する問題があるかもしれません。
Firefox開発で、実は非常にうまくいったと思うのは、開発の過程で、そうした意見が集まり、それぞれの分野について深い見識を持つ人たちが積極的に関わってきてくれたことです。
Mozillaコミュニティの人々によるFirefoxへの貢献は、プログラムコードを書くことだけではありません。できたソフトウェアのテスティングからローカライズ、ドキュメンテーションの執筆、さらには、このFirefoxを他の人に勧めるエバンジェリズムなど、非常に多岐にわたっています。
「オープンソース×成功」の秘密のレシピ
――世の中には成功せずに埋もれてしまうオープンソースプロジェクトもたくさんあります。成功するプロジェクトはどこが違うのでしょう?
一つ目は、成功させようとする「決意」でしょう。オープンソースの運用の仕方はいろいろあります。小さなグループ、大きなグループ。規則を細かくするやり方、親しみやすいやり方などさまざまです。
ただ、Mozillaプロジェクトの長い紆余曲折を振り返ると、このプロジェクトをここまで長続きさせ、成功に結びつけたのは、強い意志でこれを成功させようと奮闘する数百人の人々のおかげだったと思います。
二つ目は、何を成し遂げるべきかについての共通の理解、これも極めて大事な要素です。
そして三つ目は、どういった分野のソフトかという要因です。
これについては、「どの分野のソフトなら、これくらい広まれば成功」といった尺度も違うわけで、オープンソースだけに限らず商用ソフトでも、成功の判断が難しく、失敗しているものもたくさんあると思います。企業の中でテスト的につくられたプロトタイプなどのプロジェクトを含めると、失敗して消えていくプロジェクトの数はさらに多くなります。
最後まで続いて成功するソフトという方がまれな存在なのです。
そして最後は、やはりいいコミュニティを持つということでしょうね。われわれはこれらの点において恵まれていました。