第3世代ブレードを推進するHPのブレード戦略--特集:ブレードサーバ市場を探る(1)

谷川耕一

2007-05-09 08:00

 ブレードサーバの人気が高まっている。2001年頃に市場に初めて登場したブレードサーバは、新しいサーバ技術として一躍注目を集めるかに思われたが、実際にはそれほど大きく普及しなかった。

 当時のブレードサーバを表すキーワードは「高密度」。2U、あるいは3Uのラックスペースに数多くのサーバを搭載する技術は、サーバ統合という側面で画期的なものに見えた。しかし、実際には高密度を維持するため性能が犠牲になっていたのだ。この第1世代ブレードサーバは、結果的にはISPなどきわめてたくさんのサーバを扱う特殊な用途でしか採用されなかった。

 次に登場するのが、多くの企業が採用を始めた第2世代ブレードサーバだ。これは、タワー型やラック型のサーバと同じ性能のサーバを集積してサーバ集約を図るというもの。性能を犠牲にしなかったため、ブレードの小型化はあまり考慮されず、密度重視の設計とはなっていない。

 この第2世代のブレードサーバが一般に採用されるようになった理由のひとつは、ベンダーが管理性の向上に力を注いだことだ。ブレードとはいえたくさんのサーバを管理する手間は、物理的にサーバをたくさん並べるのとそう大きく変わるものではない。スペースなどはもちろん効率化されるが、数多くのサーバを集中管理するには適切な管理ツールなどを利用する必要がある。各ベンダーが管理性重視の方向性を打ち出すようになり、本来のブレードサーバの有効性と合わさり、ユーザーは高い関心をもつようになったのだ。

他社を一歩リードするバックプレーンの技術

 「業界初の第3世代ブレードとHPでは呼んでいる。これは提供するブレードがHPの第3世代なのではなく、まさに次世代のブレードサーバと呼べるものだ」

山中氏 第3世代ブレードについて説明する日本HPの山中伸吾氏

 日本ヒューレットパッカード(HP) エンタープライズ ストレージ・サーバ統括本部 インダストリー スタンダード サーバ製品本部 ブレード・バリュープロダクトマーケティング部の山中伸吾氏は、2006年に出荷を開始した「HP BladeSystem c-Class」を、第2世代を超えたまったく新しいブレードサーバ製品だと説明する。

 第2世代では、性能の向上と管理の容易性が提供されるようになったが、用途としてはウェブサーバやファイルサーバなど、比較的負荷の軽いサーバの集約が目的となっている。これに対しBladeSystem c-Classは、ストレージやネットワークも含め、サーバに必要な機能をすべてブレード化しているのだ。さらに、ハイエンドのSMPサーバと同じItanium2を搭載するIntegrityブレードも提供しており、ウェブサーバはもちろん、アプリケーションサーバやデータベースに至るまで、プラットホームの3階層すべてをこのブレードサーバで実現できる。

 BladeSystem c-Classは、HPとCompaqの合併後、双方の技術を集結して開発したものだ。「2年をかけて2000人を超える技術者を投入し、徹底的に使う人の意見を取り入れて使いやすさを追求した」と山中氏。エンクロージャはCompaqの技術をベースにし、管理性を向上させるためにプリンタで利用される小さな液晶モニタを採用するなど、有効な技術はどんなものでも取り入れた。

 例えばBladeSystem c-Classシリーズには、ストレージブレードも用意されている。これは、CPUブレードではなく、エンクロージャにハードディスクを簡単に追加できるもの。これを実現するには、エンクロージャのバックプレーンに通す信号速度をきわめて速くする必要がある。従来ネットワーク信号はせいぜい1Gビット程度だったが、ハードディスクをブレード間で共有するためにPCI Expressバスなどと同様のテラビットクラスの速度の信号が通せるようになった。この技術は、ハイエンドサーバSuperdomeの技術が応用されている。

 また、エンクロージャが壊れると、ブレードサーバすべてが利用できなくなる。これに対し通常は、バックプレーン上の部品を二重化するなどの冗長化で対応するのが普通だが、HPではそもそもバックプレーンが壊れない設計に取り組んでいる。信号経路などはもちろん二重化するが、バックプレーン上には故障の原因となる部品を搭載していないのだ。これにより、エンクロージャ自体の耐障害性が高くなっている。

 さらに、現時点でHPのブレードサーバでしか実現できていない技術に、バーチャルコネクトという機能がある。MACアドレス、WWN(ワールドワイドネーム)といった物理アドレスはディスクやボードに固有のものであり、部品の故障による交換や拡張による追加が発生した際は、新たなアドレスをネットワーク管理者に届け出て設定してもらう必要がある。組織が小さければすぐに対応してもらえるかもしれないが、往々にして大きな組織の場合は部品の入手から依頼、設定完了までに多くの時間が必要となる。この管理の手間を嫌い、SANではなくNASディスクを採用するといった話さえも聞こえてくる。

 この手間をなくすのがバーチャルコネクトだ。サーバとネットワークを仮想化して分離し、スロットにあらかじめ物理アドレスを設定しておくことで、そこに搭載された部品のアドレスを上書きする。これにより部品交換が行われても、新しい部品のアドレスはスロットに設定したアドレスで上書きされる。つまり、部品を交換しても物理アドレスが変更されることはなく、ネットワーク管理者に設定変更の依頼をする必要がなくなるのだ。これはディスク装置なども合わせて提供できる総合的なHPの体制があるからこそ、実現できるものであろう。

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