CSR経営の取り組み
同社は、2002年7月の国後島ディーゼル発電所事件、2004年11月のDPF(粒子状物質減少装置)問題と、21世紀に入り2つの大きな社会的な問題を引き起こした。これらにより長い期間を掛けて積み上げてきた、三井物産の信用と信頼は失墜してしまったと言わざるを得ない。
そこで同社は、ステークホルダーの信頼と期待に応え、企業の社会的責任を重視する経営を推し進めることにより、質と量の両面から企業価値の向上を目指すことを経営目的として、2006年4月に制定した「三井物産コーポレートガバナンス及び内部統制原則」に明示、同時にCSR経営の全社推進の中核母体となるCSR推進部を発足させたのである。同社が目指すCSRの道標は経営理念である。経営理念は「Mission」「Vision」「Values」――という3つからなり、これらの経営理念は社員証の裏に記載されている。
経営理念から外れる仕事は良い仕事ではない
商社は新しいニーズとシーズを見つけてきて、事業を起こしていくという業態において、個人の裁量がとても広いと言える。その中では「自由と規律」のバランスが問われることになる。コンプライアンスはもちろんのこと、「経営理念から外れる仕事は良い仕事ではない」と全社員が認識し、規律の中で自由に事業を起こしていくのが商社の正しい姿だろう。
こうした認識の下、三井物産は4つの事業を「特定事業」と定め、慎重な事業推進を図っている。(1)新技術・新事業の開発を伴う「R&D型事業」、(2)環境に密接に関与する「環境関連事業」、(3)ヒトゲノム・遺伝子解析などに関連する「バイオ倫理関連事業」と、(4)補助金事業や公序良俗に抵触するリスクのある「公共性の高い事業」――の4つである。
経済のグローバル化、情報化、あるいはCSRに対する意識の高まりなどにより企業を取り巻くリスクは、増大し多様化している。上記4つの事業領域に関しては、同社のCSR推進部が「特定事業管理制度」にのっとり、リスク管理や経営理念に抵触しないかどうかの観点から、金額の大小を問わず、全案件を審査しているという。リスク管理の手法として、評価されるものとなっている。
社員とのかかわり
またCSR推進部では、社員一人ひとりの意識が、経営理念「Mission」「Vision」「Values」というベースと重なるように意識啓発やセミナーに注力している。こういった取り組みを後押しするべく評価制度を見直し、組織業績評価の評価基準をシフトさせている。