「軍隊2.0」に学ぶ
エンタープライズ2.0による経営課題の解決。個々の経営課題が解決されたとして、最終的に企業はどこに向かうのだろうか。エンタープライズ2.0が目指す方向性をイメージする上で、興味深い例をひとつご紹介しよう。ITを使って組織とワークスタイルの劇的な変革を遂げた米国陸軍のケースである。
軍隊といえば組織図型組織の産みの親である。その軍隊の代表格、米国陸軍でも、対ゲリラ戦、対テロ戦という、刻々と状況が変わる不確実性の高い戦闘が増えるにつれ、旧来の組織が機能不全を起こしつつあった。
1992年のソマリアにおける米軍対ゲリラの市街戦において米軍は神出鬼没のゲリラを前に、陸上部隊、ヘリコプター部隊それぞれの情報がうまく流れずに混乱に陥り、急展開する戦況に対応できないまま、大きな損害を出した。
このソマリア戦は、「組織図型組織」の限界を深く考えさせる結果となった。そこで米国陸軍は、1994年に「Force XXI(21世紀の軍隊)」と名づけたビジョンを発表する。そこにはこれまでの軍隊では考えられない次のような内容が描かれていた。

各部隊がネットワークで結びついたネットワーク型組織に変化、直属の上官以外にも他の部隊とのコミュニケーションラインが張り巡らされており、従来トップに集中していた情報は組織全体で共有される。
また、これまで本部だけが持っていた権限、たとえば「ロケット砲を発射する権限」も末端の兵士に委譲、各兵士がリーダーとしての権限を持ち、目の前のチャンスを生かして戦闘に挑む。
そして2003年、ビジョンは実戦フェーズに入った。今回のイラク戦から投入された「ランドウォーリアー」と呼ばれる完全情報武装化した兵隊は、頭にヘッドセットをつけており、ヘッドセット上のモニターにはGPSにより自分/敵味方の位置と兵力がリアルタイム表示されるようになった。
また、付近の地形も高解像度の衛星写真をベースにあたかもそこにいるかのようなレベルで確認できる。こうして、戦場のすべての情報が1人ひとりの兵士の元に集められる。そして、兵士同士はトランシーバーや通信装置により、上官を介さずに直接コミュニケーションを取り合いながら、アメーバのように作戦を進めていく。
そして、ヘッドセット上のマウス操作ひとつで簡単に、ロケット砲部隊、ミサイル部隊、航空部隊に指示を出し、特定の地域をピンポイントで爆撃することができる。このSFのような世界が、2.0時代の兵士の姿なのである。