手組みで複数業務を統合することは不可能
では、90年代のERPは、何をもって企業に受け入れられたのだろうか。
「私自身もそうだったのだが、手組みではERPのようなシステムは作れない。開発が困難だったからだ」(浅利氏)
企業のプロジェクトで、販売システム、会計システム、物流システムの3つを同時期に開発するなどということは、ほとんどない。もしも、同じ言語、同じ開発手法でこれらのシステムを同時期に開発できれば、マスターデータやコードについて一貫性を持たせられそうだ。しかし、現実には、複数の業務システムは、数年かけて1つずつ開発していくのが一般的だ。開発時期が5年もずれると、プラットフォームや開発方法論のトレンドが変わってしまっているため、同じ作り方はまずできない。
「それがいかに苦しいか。システムを3つ4つ担当していると、開発して動かすまではいいが、それを5年10年と面倒を見ていくことの苦痛、非効率性は本当にひどい。だからIT部門、開発サイドにとってERPは大歓迎された」
これは、SAP R/3 2.2Dから6度のバージョンアップと、グループ展開を含む2度のビックバン導入およびグローバル展開経験を持つ浅利氏の実感だ。ERPの価値は経営の視点よりもむしろ、ITの視点からクリアに見えたのである。
ERPは企業を幸せにしたのか。この問いに浅利氏は「間違いなく“イエス”だ」と答える。
「手組みでは不可能だった複数業務の統合を短期に実現できるようにした。そして、一度システムが動き始めれば、自社のモデルをコアとして持つことができ、国内だけではなく、グループ会社や海外拠点などへのスピーディな横展開ができるようになった」(浅利氏)
少なくともこの2つの点において、ERPが企業を「幸せ」にしたのは確かなようだ。
次回は、ERPの“10年後”に思いを馳せてみよう。
