OSS開発の新たな流れを予感させたTOMOYO Linuxメインライン化記念勉強会 - (page 3)

富永恭子(ロビンソン)

2009-07-17 21:17

TOMOYOからの感謝状

 人は時に、思いがけない幸運に出会うことがある。そしてそれは、確固たる形を成さない一瞬だったりもする。しかし、ごく稀な偶然であれ、紙一重のタイミングであれ、その瞬間、その場に居合わせた者すべてが、感動で満たされ、喜びを享受する、そんな幸運だ。

 「今回の発表で伝えたいテーマのひとつは感謝だった」という原田氏は、「それをこのイベントで形として表すために、これまでメインライン化を支援してくれた人々それぞれへの思いを言葉に代えて、感謝の気持ちを込めて贈ろう」と、手作りの感謝状を密かに用意していた。

 一つひとつ文面の異なるその感謝状は、YLUGカーネル読書会の吉岡弘隆氏、スタジオブックマークの伊藤正宏氏、SourceForge.JPとSlashdot Japanを運営するOSDNの安井卓氏、そして2007年のOLS(Ottawa Linux Symposium)で、「自分はオタワに行けないが応援したい」とTOMOYO Linuxのためにポスターを作成した田中将史氏らに贈られた。

 田中氏への感謝状には、「TOMOYOに勇気を与えてくれた」の一文が記されていた。それを読み上げる原田氏の声が、こみ上げる思いにつまったとき、その場の全員が固唾をのんで見守った。そして温かな感動が会場に満ちた。なんともいい光景だった。

「TOMOYOに勇気を与えてくれた」田中氏(右)への感謝状を読み上げる原田氏

 しかし、私はTOMOYOこそが、それを支えた一人ひとりに勇気を与えたのではないかと思う。NTTデータのプロジェクトであるTOMOYO Linuxが、社外の人々との交流の中で道を模索し、社内外の多くの人々に支えられながら達成したメインライン化は、企業の中のプロジェクトが、オープンソース開発で成果を上げたモデルケースになった。

 2003年にプロジェクトがスタートし、2005年にオープンソースとして公開、2007年からメインライン化をめざし、2009年の6月に標準カーネルに採用された。2年刻みの歩みは、一見、順調そのものに見える。しかし、延べ6年もの歳月は、企業にとってもプロジェクトにとっても長いものだ。その中で得た貴重な成果である。

 そしてそれは、プロジェクトチーム、外部の組織や勉強会、メーリングリストを通じて知己を得たコミュニティの人々、そしてNTTデータという企業、そのどれが欠けても成し得なかったことに違いない。その意味でTOMOYO Linuxとは、極めて絶妙なバランスの上に成り立ったプロジェクトであったとも思う。

TOMOYO Linuxから生まれた新しい流れ

 この勉強会を通して私は、『伽藍とバザール』の著者、Eric S. Raymond氏が提唱したオープンソース開発の「バザールモデル」とは何かを少しだけ理解できたような気がする。TOMOYO Linuxは、それを正しく理解した。それが形となって表れたのが、今回の成果なのだと思う。

 NTTデータで生まれ、コミュニティとの出会いから進化したTOMOYO Linuxは、彼らへの「感謝の気持ち」とともにメインラインに至ったのだ。勉強会に参加した人たちは、その軌跡を追体験した。それは軌跡の一部ではあったが、それでも、自分たちの中に新しい何かが湧き上がってくるのを感じるには充分だったはずだ。この新しい流れは、この先で、今度は何を生み出していくのだろうか。

勉強会には多数の参加者がつめかけた 勉強会には多数の参加者がつめかけた

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