エンタープライズソーシャルコンピューティングの導入に立ちはだかる10個の問題

文:Dion Hinchcliffe(Special to ZDNet.com) 翻訳校正:村上雅章・野崎裕子

2009-08-04 08:00

 ZDNetの編集長であるLarry Dignanは7月下旬の記事(英文)で、企業におけるソーシャルメディアへの取り組みとその業績との興味深い関係に関する最近のレポートを分析している。このレポートは、Altimeter GroupのCharlene Li氏とWetpaintによるものであり、その主なポイントは以下の通りである。

 具体的に言えば、ソーシャルメディアに対して幅広く、かつ深く取り組んでいる企業は、売上と収益性のいずれにおいても同業他社を大幅に上回る成果を上げている。

 このレポート(その詳細と、PDFファイルでのレポート提供についてはこのページを参照のこと)は、ソーシャルソフトウェアを自社のさまざまな部門に適用すべく取り組もうとしている企業にとって励みとなるだろう。しかし、Larryが指摘しているように、こういった数値はさまざまに解釈することができるのである。このため、ソーシャルメディアというものに対する投資収益率(ROI)が本当に算出できるのかという疑問を投げかけられることは減ってきているものの、今日における一般的な企業がソーシャルメディアに取り組んだ場合、根本的な業績向上に結びつけることができるのかという疑問はまだ残されている。

 こういったことは、2009年6月に開催された「Enterprise 2.0」カンファレンスのあちこちで話題に上っていた次のような疑問を際立たせるものとなっている:ソーシャルコンピューティングは本当に企業業績の大幅な向上をもたらすのか?あるいは、軽微な改善を付加的にもたらすだけなのか?という疑問である。

 有望な事例研究や証拠、調査が積み重なってきているとはいうものの、ソーシャルコンピューティングがビジネスにもたらす完全な影響というものについては、残念なことに現在のところまだ結論が出ていないのである。また、ソーシャルコンピューティングへの投資に対するリターンは企業によって大きく異なるはずであり、その理由については以下で考察している。現時点では、ソーシャルコンピューティング(ソーシャルネットワークやエンタープライズ2.0から、クラウドソーシングやソーシャルCRMに至るまで、企業によって採用されるあらゆる種類のソーシャルソフトウェアを含んでいる)を採用している企業の数が少ないため、同じ分野の企業同士を比較することでソーシャルコンピューティングの功罪を把握することができない状態なのである。また、ソーシャルコンピューティングを採用している企業であっても、実際に効果を把握できるほど長期間にわたって使い込んではいないのである。

 とは言うものの、企業が試験的な導入や、イニシアチブの発揮を始めるようになったことで、ソーシャルツールによってもたらされる文化的な影響や、IT部門やビジネスへの影響がより明確になってきている。そしてそれに伴い、一連の問題も浮き彫りにされつつあるのである。

ソーシャルコンピューティングの採用曲線

補足:ソーシャルコンピューティングとは何なのだろうか?これは企業内における、あるいは他の企業や従業員、顧客、ビジネスパートナーといった利害関係者との間においてソーシャルソフトウェアを利用することである。以前の記事(英文)で説明しているように、ソーシャルコンピューティングは生産能力やイノベーションに大規模な変革をもたらす魁となる可能性がある。企業はいずれも、エンタープライズソーシャルコンピューティング用のツールを各社少しずつ違ったかたちで採用していくことになるはずである(関連英文記事)。そしてたいていの場合にはとりあえず使ってみることから始めて(手始めとして、広く利用可能なコンシューマーツールを採用するということが多いはずだ)、より進化したオープンビジネスモデルを採用するようになるだろう(関連英文記事)。なお、2009年時点で、大企業の約半数が何らかのかたちでソーシャルコンピューティングツールを導入している

 以下に挙げている問題は、筆者のクライアントや業界内の知人を始めとする、この分野に詳しい人たちからの話を総合してまとめたものである。

 ソーシャルコンピューティングにまつわる以下の10個の問題は、筆者が最もよく耳にするものである一方、読者の方々の感じ方はそれぞれ異なっているはずである。とは言うものの、筆者はこれらの問題が2009年における現状を反映したものになっていると確信している。なお、こういった問題は乗り越えられない障壁などでは決してなく、アーリアドプターたちがソーシャルコンピューティングの採用曲線(上の図を参照のこと)を登り始める際に直面しそうな代表例を描写しているにすぎないという点に留意してほしい。

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