リーマンショックから1年近く経過して、転げ落ちた景気も底を打ち、ようやく薄日が差し始めてきたような気配が感じられる。しかし、この間「早期退職制度」と称した「肩叩き」や「リストラ」、正確には「整理解雇」に踏み切った企業も多かった。
業績の悪化に伴う人員整理のことを「整理解雇」と呼ぶ。整理解雇は、人員整理をしないと倒産してしまうような切羽詰まった状況において行われる解雇のことだ。あるいは、業績悪化で縮んだ営業利益を、見た目だけでも良くするために行われる解雇とも言える。
「企業は人なり」の精神はどこに消えた?
100年に1度などと言われる経済危機のさなか、退職すれば次の就職先を見つけることは極めて難しい。ほとんどの企業が採用を行っておらず、貯えがなければ生活に困ることは分かり切っている。そんな時期にあえて整理解雇を実施するというのは、かなり冷血的な意思決定とも言える。
解雇すれば、解雇された人が持つ経験や知識、スキル、人脈は失われる。後でその人の代わりに別人を採用したとしても、立ち上げるまでには教育のコストも時間もかかる。合理性のない整理解雇は法に反する可能性が高い。それをあえて実行するという意思決定は、法に反するリスクを取りながら、人的資本を減らし、負債を増やしているように思えてならない。
また、以前の労働基準法においても同じだが、早期退職(自己都合退職)を装った指名解雇を含む整理解雇については、司法的な判断からも、認められないことが多いのではないかと思われる。ご存じのように「整理解雇の4要件」という、整理解雇を厳しく規制する「判例法理(裁判所の過去の判例から導出された不文律)」が存在するからだ。
従って、突然肩を叩かれたとしても、叩かれた人は必ずしも合意する必要はなく、例えば「転職先が決まるまでは辞める意思がない」ことを明言して、時間を稼いでみることもできる。そして都道府県労働局に相談してみるとよい。労働問題の専門家による無料の「労働紛争解決制度」を利用できる。
ただ、不幸にも一度肩を叩かれてしまうと、その人のプライドやモチベーションは大きく崩れる。外見的な変化はなくても、ストレス性の疾患を発症するほど、深く心が傷つくケースもある。もちろん、その会社への忠誠心もきれいさっぱり無くなるだろうから、無理して会社に残っても、前向きに働くことは難しいかもしれない。