Kenneth I. Juster氏は、米Salesforce.comにて政策や企業戦略を担当するエグゼクティブバイスプレジデントだ。成長を続けるSalesforce.comは、米国以外でのビジネスが全体の30%以上にまで成長し、海外市場での戦略も注目されている。米国にて開催中の「Dreamforce '09」の会場で、Juster氏に海外での戦略やクラウドコンピューティング市場について聞いた。
--Salesforce.comが日本にデータセンターを設置するという話を何度か聞いたが、いまだに実現していない。どういう条件がそろえば日本にデータセンターを設置することになるのか。
Salesforce.comがサービスを開始した当初は、データセンターが米国西海岸に1カ所あるだけだった。クラウドサービスを提供している企業は、まだ1カ所しかデータセンターを保有していない企業も多い。しかしこれでは災害のリスクもあるため、われわれは東海岸にもデータセンターを設置した。これで災害対策もできることになる。米国にはあと1カ所データセンターがあるが、これは開発用にしか利用していないため、ユーザーのデータはこの2カ所でのみ保管している。
クラウドモデルでは、データのある場所がどこかということよりも、サービスが安全で信頼性が高いかどうかが問題なのだが、実際には近い場所にデータセンターを設置してほしいと望んでいる顧客が多いことも理解しているつもりだ。そのため今後はそういう顧客の要望にも応えていきたいと考えている。
海外初のデータセンターとしては、7月にシンガポールのデータセンターをオープンしたばかりだ。2つ目の海外データセンターはアジアかヨーロッパに設置したいと考えているが、アジアに設置する場合は日本になる可能性も高い。ユーザー数が多いことと、運営するための人材がそろっていることなどがその理由だ。シンガポールとの位置関係からして、災害対策のバックアップデータセンターとしても機能できる。
日本のユーザーにも、次のデータセンターが日本になる可能性があることは伝えている。ただし、コミットはできない。データセンターの設置場所は、今後1年から1年半ほどかけて考えていきたい。
--中国が大きな市場として注目を集めつつあるが、中国市場をどう見ているか。
中国でのビジネスについては何年も検討しているが、チャンスは大きいものの課題も大きいと思っている。まず中国はインターネット接続が安定しておらず、アクセス環境も限られている。また、サービス価格も全般的に低めなので、簡単には参入できない市場だ。それに中国政府は、データセンターを国内に設置してほしいとの意向を示している。しかしSalesforce.comでは当面中国にデータセンターを設置する予定はない。
われわれは成長中の企業なので、数多くのビジネスチャンスが存在している。それぞれのチャンスに優先順位を決めて取り組まなくてはならないわけだが、中国市場に参入する際の課題を考えると、やはりほかに優先順位の高い分野から取り組まなくてはならない。
--クラウドの普及が進む中、自社のデータを自社内にとどめておくプライベートクラウドにも注目が集まっているが、このタイプのクラウドサービスについてどう考えているか。
プライベートクラウドサービスを提供する企業は、クラウドとプライバシーの両方のいい面を組み合わせたものがプライベートクラウドだと主張しているが、彼らのサービスは単なるホスティングサービスに過ぎず、真のクラウドサービスとは言えない。
プライベートクラウドには、われわれの提供するマルチテナントタイプのパワーはない。マルチテナントだからこそ、規模が大きくなればなるほど経済的で効率的になるというクラウドコンピューティングの本当の利点が働いてくる。プライベートクラウドでは、われわれのサービスやGoogle、Facebookが提供するサービスのような恩恵は受けられないのだ。
確かにマルチテナントのクラウドサービスを構築するには高い専門性と技術が必要だ。われわれはそれを作り上げてきた。10年前にはクレジットカード番号をインターネットで入力することが恐ろしいと考える人も多かったが、今では実店舗でカードを出すのと同じ感覚でネット店舗でもカードが使われている。これと同じで、マルチテナントモデルのクラウドサービスも安全だという理解が進んでいるのだ。