ハードまで作るグーグルは“やり過ぎ”?

飯田哲夫(電通国際情報サービス) 2010年01月13日 16時00分

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 Googleが携帯電話「Nexus One」の直販を開始した。メディアでは、その機能性や操作性に関するレビューが中心であるが、ここでは業界構造に対するインパクトを考えてみたい。なぜなら、Googleが今回やってしまったハードウェアの直販という行為は、これまで補完関係にあったはずのほかの携帯電話メーカーへの裏切り行為とも取れるからである。

補完関係を崩すGoogle

 Googleは携帯電話向けOSである「Android」を開発し、それを普及させるために、MotorolaやSamsungなど多くの携帯電話メーカーと協力してきた。しかし、Androidがそれらメーカーによる協力のもとに普及してきたところで、Googleが自社開発の携帯を直販すれば、これまでの協力体制が崩れることとなる。

 これは、Androidへの投資をしてきたメーカーにしてみれば、Googleによる裏切り行為とも見えるだろう。また、今後予定される「Google Chrome OS」についても、それを搭載したネットブックの発売を予定しているメーカーは、同様のことを予期しなくてはならない。つまり、いずれGoogle自身がネットブックの製造販売に参入し、市場構造を崩してしまう可能性を否定できなくなる。

従来の補完関係

 かつて、OSもアプリケーションもローカルな時代(今も主流はそうであるが)、OSやハードウェアは綺麗にレイヤが分かれ、それぞれの担い手は補完関係を構築した。原則として、MicrosoftはOSとOfficeなどの基本的なソフトウェアにリソースを集中し、ハードウェアや特化型のアプリケーションには手を出さなかった。それによって多くのハードウェアメーカー、ソフトウェア会社が補完的な製品を提供し、Microsoftは市場を席巻することとなる。

 つまり、一企業としてすべてを提供するよりも、各レイヤごとにそれを得意とするプレーヤーを巻き込む方が、結果的に市場が大きくなるという判断が働く。その場合、小さな利を求めて安易に、ほかのレイヤを侵食すると、すべてのビジネスを失うことになりかねない。

新しい補完関係の構図

 しかし、Microsoftの時代とGoogleの時代を同列に語ることはできない。ハードウェアのコモディティ化、アプリケーションのサービス化が進行するなかで、ローカル側に求められる機能は徐々に少なくなってきている。また、グローバルソーシングの進展により、ハードウェアを製造販売することへの参入障壁は従来よりも低い。

 そのため、これまで複数のレイヤにて構成されていたインフラ部分が、ウェブを中心としたプラットフォームに統一され、クラウドレイヤと、その上に乗るアプリケーションレイヤへと単純化される流れがある。そして、そのクラウドレイヤにはローカル側で最低限必要となるハードとOSまで含んでしまおうという判断もあるだろう。

 また、既存のハードメーカーにとって脅威になるのが、Googleが築き上げたコンシューマー市場におけるブランド力である。もはやいかなるメーカーよりも強いブランド力を持つGoogleであるならば、他社にOSやハードを任せるよりも、自社ブランドのOSとハードを市場へ押し出し、既存メーカーを裏方としてしまうという戦略もあるだろう。

今後の展開

 とはいえ、補完領域へ参入するということは、従来のリレーションを崩すことであり、Googleにとって賭けであることは間違いない。

 この賭けが成功するためには、Nexus Oneの市場投入により、ますますAndoroidの普及が進み、既存メーカーのビジネスをも伸張させることができるか、あるいは、プラットフォームプレーヤーとして他社の協力がなくとも十分に大きいプラットフォームを構築できるか、のいずれかが成り立つ必要があるだろう。これができなかったとすると、今回のGoogleの行為は“やり過ぎ”と言わざるを得ない。

筆者紹介

飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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