デスクトップのシンクライアント化、その本質と価値とは - (page 3)

栗原潔(テックバイザージェイピー)

2010-01-20 08:00

 ただし上記のメリットは、シンクライアントとして選択する機器に依存する点に注意が必要だ。たとえば、古いPCに専用ソフトをインストールすることでシンクライアント機器として活用するケースがあるが、この場合には当然ながら消費電力削減のメリットは実現されない。

 また、4番目のメリットとして挙げたデスクトップ機器のライフサイクルの長期化も、間接的に環境問題に貢献し得る。PCのリサイクルや廃棄には当然電力を消費する。また、古い電子機器が開発途上国に送られて環境汚染の原因となるE-Waste(電気電子機器廃棄物)の問題もある。シンクライアントを採用することで、このような問題の解決に多少なりとも貢献できるだろう。

シンクライアントのデメリットを考える

 では、逆にシンクライアントの課題はどこにあるのだろうか。

 最大の課題はネットワークの遅延である。シンクライアントを利用する場合には、多くのトラフィックがサーバとクライアント間のネットワークを流れることになる。ネットワークを流れるデータは、画面表示、キー入力、マウス入力などさまざまだ。ただし、過去には大きな問題となったこの点も、今日ではサーバとクライアント間のプロトコルの最適化やネットワークの高速化により、シンクライアントでもほとんど従来型のPCと変わらない使い心地が提供できている。ただし、たとえば高度なデザイン業務やGUIベースのソフトウェア開発など多量のトラフィックが発生する業務では、ネットワークによる遅延が生産性を阻害してしまう可能性が高い。

 モバイル対応も課題だ。シンクライアント機器はサーバがなければ機能し得ないからだ。リモート接続で利用する方法もあるが、現時点ではネットワーク速度や接続地域など課題が多い。将来的にWiMAXやWi-Fiがほとんどの場所で利用可能な状況になればこの課題は解決されるかもしれない。

 結局のところ、当面の間企業はシンクライアントと従来型のクライアントを適材適所で配備せざるを得ないだろう。ただ、業務系システムをすべてシンクライアントに置き換え、運用管理コストを大幅に削減できた企業の事例も耳にするようになっており、日本企業においてシンクライアントが今後も普及する余地は十分にあると言えよう。

 上記に加えて、シンクライアントには既存アプリケーションとの互換性やソフトウェアのライセンス体系などの課題もあるが、これらの課題については、シンクライアントの実装方式により考慮点が異なってくるので次回まとめて述べることにする。次回は、シンクライアントを実装する多様な方式について解説することとしよう。

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