ファーストリテイリングでは、まず組織の見直しを図った。システム運用面では、持株会社が中核となって共通機能をさまざまな業務部門ごとに配備し、経営管理と会計処理は持株会社に集約した。
同社では、国際的な事業活動によって業務スタイルが複雑化する懸念があるとともに、「民族大移動が前提となるので、グローバルに単一のシステムで業務を遂行していかなければならない。また、システムには世界中どこからでもストレスなくアクセスでき、パフォーマンスを維持することが求められる」と樋田氏は指摘。さらに、最適なコストや効率性を考えれば、「当初から年率20%というような成長を織り込んだIT投資をするわけにはいかない。業容の伸長に応じた、柔軟に拡張できるシステムでなければならない。常に最新の技術を利用するためにも、それは必要になる」という。同社で会長兼社長を務める柳井正氏も、その時点で最新の技術を導入することを求めるという。
自前システムでは数多の課題に対応するのが困難になるため、同社は「グローバルにサポートをしてくれる能力のあるパートナーから力を借り、クラウド型のシステムを選択した」と樋田氏。
G1プロジェクトを支えるG1システムは、4つの基盤で構成される。
第1のデバイス基盤は、店舗で新しい情報端末を使用できるよう、POSやパソコンのみに縛られないシステムが必要となる。
2つ目はビジネス基盤だが、業務要件に基づいて業務アプリケーションの領域をパートナーと開発する。
3つ目のコミュニケーション基盤では、世界中どこからでも円滑なやりとりが可能になるようにグローバルデータセンターを配置して音声とデータを統合、FMC(Fixed Mobile Convergence)環境を整えた。iPhoneを内線端末化して1200台を配備するとともに、テレビ会議装置を45台導入した。FMCはコストを抑制できるだけでなく、従業員、店舗、国内外のコミュニケーションの効率化、連携強化により生産性の向上も見込めるという。
4つ目の基盤は、これらを支えるインフラだ。コミュニケーション基盤は、日本のほか、欧州(パリ)、中国(上海)、北米(ニューヨーク)のデータセンターに設け、日本のセンターが基幹系業務システムとともにこれらを統括する。ここでのグローバルネットワークの運用は、NTTコミュニケーションズに委託している。
樋田氏は、新たなシステムを構築する場合、技術的な面だけでなく「組織構造のあり方」も重点として挙げる。「グループ全体でも、最適な手法やグローバルスタンダードなどをめぐって、総論は賛成でも細かな点では一致することばかりではない。業務設計、レポートラインの明確化などが重要になる。各部門間の円滑なコミュニケーションが必要だ」とした。
ITのパートナーに期待する点としては、「ビジネスのリスクも背負ってもらっていると考えている。基幹ネットワークが切断してしまったら、たいへんな損害を受けることになる。世界的にサポートをしてもらえることを望む。その代わり、利益も共有化していけるような関係が好ましい」と述べた。