ひょっとすると皆さんも同じ体験をしているのかもしれないが、ここ最近Facebookの友達承認リクエストがひっきりなしである。もしかしたら映画の影響もあるのかもしれないが、mixiと比べて日本ではまだまだユーザー数が少ないと言われていたFacebookだが、その日本におけるユーザー数の拡大ペースはソーシャルネットワークが持つ特性そのものを証明することになるのではないかと思ったりする。
そして、このソーシャルネットワークの持つ力こそがPhilip Kotlerがマーケティング 3.0で「ニューウェーブの技術」と呼んでいるものである。このKotlerのマーケティング 3.0という概念、ビジネスのコンテキストでは、ついついソーシャルネットワークを活かしたマーケティングを正当化する手段として捉えてしまいがちである。本当にKotlerが焦点を当てているのは、その目的である「世界をよりよい場所にすること」なのではないだろうか。
ITにできること
Kotlerと言えばマーケティングの大家であるが、『コトラーのマーケティング3.0』の前に翻訳された『コトラーのソーシャル・マーケティング』などのテーマを見ると、マーケティングにおけるテクノロジー利用の可能性そのものを追いかけるというよりも、むしろ社会の変化に対応したマーケティングの果たすべき役割を追求していると言った方が正しいであろう。
つまり、グローバル化の進展においてもたらされた、新興国における貧富の差であったり、環境破壊の進展であったりという現代社会の問題に対し、マーケティングというKotlerが生涯を掛けて取り組んできた領域で何ができるかを真剣に考えているのである。
そうした文脈からは、マーケティング 3.0が単なるソーシャルネットワークを利用したビジネス拡大のための議論に留まらず、「世界をよりよい場所にすること」を目指すものであることが理解できる。もちろんソーシャルネットワークを単純にビジネス拡大のためだけに利用することもできるし、それは否定されるものではないだろう。
ただ、こうした新しい技術を使うことにより、企業は「世界をよりよい場所にすること」に関し、顧客と協創関係を築くことができるようになりつつあり、その道が選択肢として開かれているという事実は認めなくてはならない。
すると、ソーシャルネットワークを支える主要な要素の一つがITであるならば、ITサービスを提供する側も、自分たちにできることが、単にITを活用して顧客のビジネスを効率化する、収益を拡大する、ということに留まらず、「世界をよりよい場所にすること」にまで拡張できることを認識する必要があるだろう。
アートにできること
実は最近同じようなことをアートの領域でも強く意識する機会が多い。アートと言えば、ギャラリーや美術館といった箱があり、そこに作家が作品を並べて、それを観客が鑑賞するという構図が従来のものであった。そして、これはこれで否定される必要はなく、これからも存続していくだろう。
しかし、ここ最近注目される「越後妻有 大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」などの地域性の強い大規模なアートイベントは、単にアートを鑑賞するという役割を越えて、過疎化する地域の再生や活性化に大きな役割を果たし、作家、地域住民、地域外からのボランティア、そして訪問者を繋ぐ協創関係を築き上げる。これは、過疎化や高齢化など、日本の抱える社会問題に対して、アートという領域が果たせる役割を拡張して見せたものである。
社会の変化に対して
Kotlerが社会の変化に対応して、一つの技術としてのマーケティングの果たす役割を大きく変えようとしているように、またアートがその新しい役割を示そうとしているように、ITもその社会において果たす役割を常に再定義することが必要であろう。
ところで、恵比寿の「風花」での「New Year Exhibition」、1月31日で終了致しました。今回も来て下さった方、ありがとうございました。作品を発表するようになって3年目になりますが、個人レベルでもアートの果たす役割が一元的ではないことを強く感じます。それは単に自己表現としてのアートに留まらず、そこを基点として多様なコミュニケーションのネットワークが複数のレイヤで構築されていくことの面白さです。こちらについてはまた別の機会にでもお話できたらと思います。ではまた。
筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。