昨今、仕事の中で、現場のスタッフが日々利用する業務アプリケーションのフロントエンドがウェブブラウザであるケースもそう珍しくなくなった。
業務システムのアーキテクチャのトレンドは、長い時間の中で変化を繰り返してきた。80年代におけるホストコンピュータによる一極集中型から、90年代には、いわゆる「クライアント/サーバ」による分散型のアプローチが主流となった。そして、90年代後半から現在に至るインターネット環境の爆発的な普及により、ウェブブラウザをフロントエンドとする「ウェブ型」のシステムが現在のトレンドとなっている。
ウェブ型システムのメリットとしては、クライアント/サーバ型アーキテクチャで課題となっていたシステムのメンテナンス負荷の低減や、トータルでのシステムコストの低さなどがある。しかし、業務システムのフロントエンドがウェブブラウザに置き換わっていくに従い、また新たな課題も生まれてきた。それは、頻繁なウェブサーバへのアクセスが発生することによる応答速度の低下や、HTMLベースの比較的貧弱なユーザーインターフェース(UI)による作業効率の低下といったものである。
これらの課題を解決するために生まれた考え方のひとつに「リッチクライアント」がある。この言葉自体にはさまざまな定義はあるが、それらに共通した目標は、ウェブのアーキテクチャや技術を最大限に活用しつつ、従来の業務システムが持つ高い操作性や迅速な応答を実現することだ。
こうしたウェブ業務アプリケーションの実現に、1999年から取り組んできた製品のひとつがアクシスソフトの「Biz/Browser」だ。Biz/Browserは、ウェブのアーキテクチャを活用しつつ、作業効率の高い基幹業務システムを構築するためのフロントエンド基盤を提供するミドルウェア製品として提供されている。同社は5月25日、その最新版となる「Biz/Browser V(ビズブラウザ・ブイ)」の出荷を開始した。

アクシスソフト、代表取締役社長の永井一美氏は、Biz/Browserの方向性として「業務システムのクライアントとして重要な要素は何か」という点を繰り返し強調する。それは、ユーザーが使うプラットフォーム上で、作成したアプリケーションが確実に、安定して、さらに今後も長期にわたって動き続けることを保証することだという。もちろん、時代の移り変わりによって生まれてくるプラットフォームの変化なども、可能な限りBiz/Browserのアーキテクチャで吸収するつもりでバージョンアップを行っていくとする。
1999年の初版リリース後、Biz/Browserは国産のリッチクライアント製品として800社以上への導入実績を誇る。発表されているBiz/Browser導入社名を見てみると、第一生命保険相互会社、すかいらーく、生活協同組合連合会、イトーキ、ヤマト運輸など、大規模な事例が並ぶ。
5月25日に提供が開始された最新版は、2005年にリリースした現行バージョンである「Biz/Browser XE」以来、約6年ぶりのメジャーバージョンアップとなる。永井氏はBiz/Browser Vのコンセプトとして「More Usability」「More Cost Performance」「More Long Support」を挙げ、「100以上の機能強化を行っている」とする。
要となるユーザビリティ面の強化としては「HTMLビューア機能」「スケーリング機能」「高機能スプレッドシート(SuperSpread機能)」の3点を挙げた。
HTMLビューア機能は、Biz/Browser内部でのHTML表示を可能とする機能だ。従来のBiz/Browserは通常のウェブブラウザをコンテナとして利用し、その内部でアプリケーションを動作させていたが、今回新たにBiz/Browser自体をコンテナとすることで、汎用のウェブブラウザ利用時に発生していた環境差を吸収することが可能になるという。
スケーリング機能は、デスクトップやノートPC、プロジェクタ、モバイルデバイスといった端末ごとに異なる画面解像度の環境差を吸収する機能となる。アプリケーションが表示される端末の画面解像度に合わせて、自動的に項目の表示サイズが拡大・縮小される。これにより、多様な利用環境に合わせた個別開発の手間を低減できる。また、開発の段階で、UIのどの部分をスケーリングさせるか、させないかといった指定も可能という。
高機能スプレッドシート機能は、Biz/Browserのアプリケーション内にMicrosoft Office ExcelライクなスプレッドシートのUIを取り込める機能となる。セルの色指定、枠線表示、計算式といった機能を提供することで、これまで表計算ソフトのシートとして作り込んでいたようなアプリケーションのウェブシステム化を支援するという。

パートナー施策も拡充--開発版は無料に
また、今回の新バージョンより、Biz/Browserにまつわるパートナー戦略の大幅な拡充を表明している。
まず、これまでは有償で提供していたBiz/Browser専用開発ツール(Biz/Designer)の開発者ライセンス(税別25万円)および年額の利用料(税別年間5万円)を無償化するという。加えて、新たに「Biz/Browserスペシャリスト育成プログラム」および「共同営業・プロモーションプログラム」を開始し、開発パートナーとともに、大幅な導入ユーザーの拡大を目指す。
スペシャリスト育成プログラムでは、技術者や営業担当者向けのトレーニングを無償で実施するほか、アクシスソフトでの技術者認定を行って「認定技術者」を育成していく。また、定期的なワークショップの開催に加え、同社の販売支援エンジニアがデモンストレーションやプロトタイプの設計、開発についても支援するという。
そのほかにも、パートナーと案件の共同展開を行うほか、パートナー向けポータルサイトの構築、メールニュースの発行などを通じて、より幅広い開発パートナーとの密接な関係を築いていくとしている。