見えるものに目をやり、見えないものを軽んじる
どういうITにするか、どういうソリューションを入れるか、どういう技術を採用するか――。こういう内容はさまざまなメディアに登場するし、さまざまなソリューションベンダーが提案する。組織や投資管理について言及する論調もあるが、あまり目立たない。結果として、日本企業のIT部門において、組織やIT投資の在り方を考える優先度は低くなっていくのではないだろうか。
しかしながら、経営学説にもあるように、戦略は組織に依存し、組織は戦略に依存する。組織が整っていなければ新しい戦略を遂行することはできないし、新しい戦略を実現するには新しい組織が必要となる。投資管理も不可欠だ。
何か新しい取り組みをする場合、「プロジェクトをどういう体制で進めるか」は非常によく考えられることが当然となってきた。参画させるユーザー、経営層、必要となるプロジェクト管理オフィス(PMO)、それぞれが果たすべき役割など、どうプロジェクトを機能させるかを考え抜くことは最近当然になってきている。
しかし、組織全体について、IT投資の考え方そのものはどうだろうか? 生産性が低い、人材が不足している、統制が十分機能しない、予算が不足している、コストを下げなければならない――といった具体的な問題はあるが、「組織が時代に適しているか?」「IT投資の在り方は時代に適しているか?」という視点で課題設定をしている企業にはあまりお目にかからない。
経営に役立つIT組織の姿は?
翻って、欧米企業はどうだろうか。我々がよく調べ、分析する企業だけがそうなのかもしれないが、時代に即した組織やIT投資にしていくという、考えてみれば当然の意思決定がなされ、実行されている。そういう意味で、経営者がITに対してより積極的に関与しているということかもしれない。すなわち、経営がよく関与しているからこそ、予算を管理し、IT部門の人事や組織を現代的なものに維持できるのだろう。
そういう意味で、日本企業はもう少しITを理解しろというよりは、経営に役立つIT組織とはどういう形態なのか、経営がマネジメントしやすいIT投資とはどういうものなのかという視点が経営者には求められる。経営者は現代に適合したIT組織、IT投資を実現する意思決定を進めて現代的なマネジメントを実現可能にするべきだろう。
SOAを担当しているアナリストと議論をするのだが、そのアナリストによれば、ITの技術は「呼び出す方は呼び出される方を気にしない」方向に進化しているらしい。それがService化の方向性だという。そういう意味で言えば、組織全体もユーザーに細かいことを気にさせない方向にシフトするのは、ある意味当然と言えば当然である。
さらに一部のソリューションに見られるような、ITと人材のサービスを組み合わせて提供するサービスも増えている。ビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)と呼ばれるアウトソーシングの考え方やBusiness Intelligence Competency Center(BICC)などが代表例だ。すなわち、ITを作って動かすという伝統的な業務内容を超えたサービスも当たり前に行われるようになってきている。
すなわち、とても分かりにくい表現で恐縮だが、IT部門は単に技術がよりService化を求めるからService部門化するだけでなく、ITが提供するサービスが一層Service化する方向になるから、Service部門化しなければならない。
これまでのIT部門は、どちらかと言えばベンダーへの代理店機能を担う部門だったのではないだろうか。これからは、より“工場”に近い形態に移っていかなければならない。すなわち、ITというBusiness Processが搭載されているPlantを日々進化させ、安定・安全・高速運転する部門になるというイメージが近いのではないだろうか。