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中国で真似されて負けるようでは競争優位じゃない

飯田哲夫 (電通国際情報サービス)

2011-08-09 06:00

 中国で「アップルストア」や「IKEA」の完全模倣が話題となっている。ロイターによると、こうした欧米小売の店舗コンセプトの模倣は、富裕層の多い沿岸部ではなく、内陸部の小都市で多いという。その背景には、欧米小売業による出店が沿岸部に集中しており、内陸部の中小都市では潜在ニーズが満たさていないことがあるらしい。

 中国では何の臆面もなく、見事なまでにコピーを成し遂げてしまうので、話題性が高くなる。しかし、合法的な範囲での模倣というのは企業間競争では日常的に行われているわけで、知的資産を侵害しない限りにおいて、真似ることそのものに問題はない。

 携帯各社がiPhoneに続いてスマートフォンを出すこと然り、ちょっと前に流行った食べるラー油だって、似た商品がずらりと店に並んでいた。真似するのは別に中国に限った話ではないのだ。そもそも表面を真似されただけで競争力が減退してしまうとすれば、その商品やサービスには競争優位性は無いと見た方が良い。競争優位とは以下のように定義できる。

  1. 顧客にとって価値がある
  2. 競合他社より収益性が高い
  3. 容易に真似ができない

 この3つが満たされない限り、仮に儲かってもそれは一時的なものであり、競争優位の源泉であるとは言えない。特にここで重要なのは3の「容易に真似ができない」という要素である。なぜならば、1と2が満たされれば、誰もが参入したくなるし、誰もが先行者の真似をしてくるからである。「アップルストア」や「IKEA」のケースはまさにそれを表面的に徹底して行ったものである。

 問題は、表面的なところを真似すれば、同じだけの価値を顧客に提示し、しかも高い収益が確保できてしまうのか、ということである。もしそうだとすれば、そもそも先行者は競争優位を確立していたわけではなく、単に先行していたに過ぎない。本当の競争優位は、真似しようと思っても真似ができない、あるいは部分的には真似したものの、どうしても先行者には勝つことができないというものである。

 このあたりについては、楠木健氏の『ストーリーとしての競争戦略』が良い示唆を与えてくれる。楠木氏は競争優位の源泉を「クリティカルコア」と呼んでいるが、それが具備すべき要件は2つあるという(295~296ページ)。

  1. 他のさまざまな構成要素と同時に多くのつながりを持っている
  2. 一見して非合理に見える

 1は戦略的な施策がそれぞれ連関して、より強い効果を生むというものである。一方、2は、その戦略的施策の繋がりの中では合理的に見えるのだが、そこだけを他社が見ると非合理に見えるものを組み込めというアドバイスである。

 同書ではスターバックスの例を引いている。同社の戦略的施策のストーリーの中では直営店方式をスターバックスとしては選択せざるを得ないのだが、類似したコーヒーショップへの参入を目論む他社からすれば、直営店である必然性は理解できず、そこはスピード重視のフランチャイズで進めてしまう。

 しかし、顧客が寛げる空間を作ろうというスターバックスのコンセプトを実現しようとすれば、運営はあらゆる面でのコントロールが効く直営方式しかないのである。この場合、いかに店舗のデザインを真似たとしても、顧客が体験するエクスペリエンスは全く異なったものとなるだろう。つまり、本当の競争優位というのは、なかなかその全貌が掴みがたく、目に見える部分を真似しても同じ効果を生まないという仕組みになっているのだ。

 さて、自社の競争優位の有効性を確認するために、中国に進出して完全に真似てもらうというのはどうだろう。まず、そもそも真似してもらえるか、そして外から見て競争優位の源泉と思われる側面を完全に真似されたとき、それでも競争優位が維持されるのか。仮に中国で試さなくとも、これは常に自問し続けるべき命題である。

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飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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