「有事の対応を平時の運用に組み込む」--オラクルが提案するBCPの勘所

田中好伸 (編集部)

2011-08-24 18:35

 東日本大震災以降、事業継続性に注目が集まっている。事業継続計画(BCP)を策定していなかった企業はもちろん、策定していた企業も、その見直しを迫られている。電力が安定的に供給されるという大前提が崩れてしまったからだ。

 BCPを策定していた企業でも、BCPが実際に効果を発揮したかどうかとなると疑問が持たれている。BCPを策定しただけではなく、実際に訓練してみて、策定したBCPに課題がないかを点検して、再策定することでバージョンアップを重ねることが、事業継続性の点で重要となるからだ。

 ビジネスに情報システムが欠かせなくなったという現実が分かっている情報システム部門は、事業継続性に対する問題意識を震災以降常に持っているだろう――「できることならコストをかけて最善のBCPを策定したい」と。

 だが、情報システム部門を取り巻く状況は厳しい。ただでさえ、年間のIT投資の7~8割は運用維持に回され、新規の戦略的投資は2~3割といわれている状況だ。ITのBCPに投資したいが、どこから資金を捻出すればいいのか――。情報システム部門はジレンマに陥っているとも言える。

 日本オラクルの谷川信朗氏(テクノロジー製品事業統括本部データベースビジネス推進本部製品推進部シニアマネジャー)は、8月23日の会見で「有事の対策を平時の運用に取り込むことで、事業継続を支える堅牢な情報基盤を実現していく」ことが重要と説明した。

 この考え方は、先のジレンマに対する、注目すべき回答と言える。BCPのために別に投資するのではなく、通常のビジネスを回すために投資するとなれば、経営層も納得できるだろう。

 谷川氏は「災害だけではなく、人災を包含した観点からの対策を講じること」も事業継続に必要と説明。これらから同氏は「視点を変えて効果的に投資することで、情報基盤の高信頼性と高可用性の実現が必要」と主張している。

写真 谷川信朗氏

「やはり通常時に使えるもので有事に対応する方が得策。オラクルでは“Work@Everywhere”といって、どこでも仕事できる仕組みを整えている。これは在宅勤務を含めたものだが、この仕組みは今回の震災でも生きて、業務が止まるということはなかった。普段からやっているから対応できたといえる。“何かあった時のため”ではなく“普段から”というのが重要」(谷川氏)

 谷川氏はあるユーザー企業の声として「バックアップサイトに切り替えようとしたが、マニュアルが見つからなかった」「セカンダリサイトが立ちあがらなかった」という実例を挙げて、有事の対応を平時の運用に組み込むことの重要性を強調している。

 谷川氏は、米OracleでのBCPの実情を説明している。1990年代のOracleは各国の拠点がそれぞれにシステムを稼働させていて、まさしくサイロ状態にあったという。この状態だと、各拠点ごとに災害復旧(DR)サイトを作ることになり、Oracle全体のIT投資額が増大せざるを得なかった

 2000年代になってOracleは、各拠点のシステムを統合し、世界100カ国以上、10万人を超える従業員がすべて1つのシステム、いわばグローバルシングルインスタンス(GSI)を利用している。谷川氏の説明では、10億ドルを超えるコスト削減に成功しているという。GSIであることから、DRサイトもシンプルな構成になっているとしている。

 OracleのBCPは、テキサス州オースティンとコロラド州コロラドスプリングスの2カ所のデータセンターで管理されており、4時間以内に移設が可能というものだ。データセンターは1000マイル(約1600km)離れているが、4時間でシステムやデータを移動できるわけだ(この仕組みは買収したSun Microsystemsの技術を活用することで、より高速化されているという)。

「バックアップは保険」でいいのか

 谷川氏は、日本企業でのバックアップについて「これまで“保険”的要素があった」と言い表す。つまり、何かあったときのためのものという認識である。あくまでも保険であることから、高いストレージをなかなか用意できにくいのが実情だ。

 ハードウェアとしてのストレージを活用して遠隔地に複製(レプリケーション)を置くには限界があると谷川氏は説明する。ストレージだと、一般的には同機種でなければ構築できないことから、バックアップサイトは本番サイトと同じ環境を用意する必要があり、これは完全な二重投資になってしまう。

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