スティーブ・ジョブズに関する走り書き--元海外デスクが見たジョブズ - (page 2)

坂和 敏

2011-10-06 20:06

 さて、当日になり、いまではすっかりお馴染みになったアップルストア銀座3階の例のセミナールームに着いてみると、集まっていた報道関係者がどことなくざわついている。席を確保し、開始を待っていると、「どうもJobs氏が来ているらしい」といったひそひそ話が聞こえてくる。「もしも本当だったら、どうしよう」−−いまから思えば、どうもこうも仕方がないのだったが−−と途端に緊張し始めた私は、その「もしもの時」に備えて、質問すべき事柄を勝手に考え始めていた気がする。

 まもなく予定の開始時刻がきて、会場の雰囲気が「いよいよだな」という空気に変わったとき、本当にJobs氏が姿を現した。上掲の記事をあらためてみると、このときには、この11月から米小売大手チェーンTargetのCEOになることが決まっているApple Store部門の責任者Ron Johnson氏も一緒だったことが判るが、生憎と同氏のことはすっかり記憶にない。

2003年に開催された記者発表会でのスティーブ・ジョブズ
2003年に開催された記者発表会でのスティーブ・ジョブズ

 一方で、いまでもはっきりと記憶しているのは、Jobs氏がプレゼンテーションのなかで、Appleの戦略について「他社をイノベーションで出し抜く」と言っていたこと。例の少し甲高い声で口にしていた「out-innovate」という言葉が妙に印象的だったが、その本当の意味−−Jobs氏が意図していたことの中味がわかったのは、ここ1、2年前のことである。

 ちなみにこのとき、Jobs氏は当時飛ぶ鳥落とす勢いだったDellを比較の対象に持ち出してきて、「Dellは他社より多くの台数を売って勝ち抜く、それに対してAppleは他社を“out-innovate”していく」と説明していた。

 さて。一通りの発表が終わり、お決まりの質疑応答の時間がきた。記憶に間違いがなければ、「ここで一発いいところを見せよう」と、真っ先に手を挙げたのではなかったかと思う。

 Jobs氏に訊ねたことは2つ。ひとつは「なぜ銀座に店を出すのか」という疑問で、これは当時のAppleがまだ若者中心にiPodを売っていたり、よく「クリエーター」と称されるカタカナ商売の人たちの間で根強い支持をもつブランドだったためで、そういう“cool”な、あるいは“hip”なブランドなら、年配の買い物客も多く、どことなくまだ野暮ったいイメージのあった銀座より、むしろ青山や渋谷界隈のほうが相応しいそうなのに……という勝手な思い込みがあったからだった。

 この問いに対するジョブズ氏の答えは上掲の記事にある通りだが、「ああ、あの人は当時から、クルマでいえばフォルクスワーゲンのようなどんな人にも愛用されるような製品を扱う、そんな会社にAppleをしたいと考えていたのだな」とわかったのは、これもごく最近になってのこと−−電車のなかでiPhoneの画面をくるくると繰る女子高生の姿がめずらしいものではなくなり、あるいは録画した韓流ドラマをiPhoneで観ている年配のご婦人すら見かけるようになってからのことである。

 もうひとつの質問は、といえば……野球のピッチングでいう「内角低め、膝元」あたりを狙いたがるクセがこの時も出てしまい、自分のエゴばかりが先に立つようなどうでもいいことを訊いたことだけは記憶にある。

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