米Microsoftと日産自動車は12月12日、次世代ディーラーマネジメントシステムの構築に関する覚書を締結したと発表した。同システムは自動車を購入する顧客との接点をより密着させることを目的としている。日産の中期経営計画「日産パワー88」では「ブランドパワーとセールスパワーの向上」を謳っているが、その実現をシステム面で下支えする目的がある。
次世代ディーラーマネジメントシステムは、20年が経過した既存システムを置き換えることになる。会見に出席した日産自動車 副社長 Andy Palmer氏は、「従来は自動車に焦点をあてて、お客様を待っている状態だった」と述べた上で、新システムは「お客様が中心だ」と強調。顧客関係管理(CRM)機能とソーシャルメディアなどのコラボレーションツールを融合させ、ディーラーと顧客の関係をより強固にしたい考えだ。
次世代システムでは、MicrosoftのPaaS「Windows Azure platform」上で、CRMソリューション「Microsoft Dynamics CRM」を稼働させる。ディーラーの従業員は、スマートフォンやタブレット端末など、さまざまなデバイスからシステムにアクセスできる。また、日産の顧客がどの地域のディーラーを訪問しても、ディーラーは顧客の情報をオンデマンドかつリアルタイムに把握できるよう設計した。
日産CIOの行徳セルソ氏
日産自動車 執行役員でグローバル情報システム本部長(CIO)の行徳セルソ氏は、「顧客がどれだけ日産にとって重要な人か、リアルタイムで分かるのが大きなポイント。ほかにも、ソーシャルメディアで情報を把握し、顧客が日産をどう評価しているかもディーラーの手元に届く」と新システムの意義を述べている。
行徳氏によれば、顧客の車が修理などのサービスをどのように受けてきたか、顧客の仕事は何かなど、自動車とそのユーザーに関する情報をさまざまな端末を使って把握できるようになるという。「顧客がどこのディーラーに行っても(ディーラーは)おもてなしの対応ができる」と行徳氏は述べている。
システム構築にあたっては、日本マイクロソフトが導入を支援する。2012年12月にパイロット版を完成させ、2013年3月に国内のディーラーにサービスを展開する。国内の展開終了後、中国やインドネシア、タイなど、アジアの新興国を中心にしてグローバルにサービスを展開していく予定だ。世界展開にあたっては、米Microsoftがコンサルティングなどの支援を提供する。
日産にとってはクラウド化の第一歩
今回発表された新システムは、日産がグローバルでクラウド対応を進める第一歩であり、新たなチャレンジと言える。まずは日本全国、世界各国のディーラー向けシステムからクラウド化を進めるが、背景(テーマとも言える)の一つに「パブリッククラウドとプライベートクラウドの使い分け」がある。
行徳氏は会見で「生産システムや物流システムをクラウドで展開していくのは、プランとしては検討していく」と述べつつも、使い分けがうまくいけば「(その他のシステムも)クラウドに移行するという形を考えていく」とした。
また、新システムでDynamics CRMとWindows Azureが選ばれた理由は2つある。行徳氏によれば、1つは拡張性で、2つ目はローカルマーケットへの展開だ。
新システムが稼働を開始すれば、ディーラーマネジメントだけでなく「日本の他の業務も支えていくだろう」と行徳氏。その点で拡張性が必要だったというわけだ。また、世界展開後はグローバルの機能を支えるだけでなく、日本の良い点をさらに展開していく必要が出てくる。この点で、ローカルマーケットへの迅速な展開が可能という評価になった。
「クラウドテクノロジとクラウド対応開発環境が必要になるが、Microsoftが提供しているテクノロジがベストだと日産は判断した。それが提携の大きな理由だ」(行徳氏)
クラウド化を果たす新システムでは今後、ITリソースのオンデマンドでの提供と、災害復旧(DR)とバックアップのさらなる強化を進める。
また、20年を経た既存のディーラーマネジメントシステムは複雑化しており、新システムではそのシンプル化にも挑む。「プロセスをシンプルにして、マーケットに必要な機能だけをもつ」と行徳氏は述べており、新システムでは従来比15〜20%の運用コスト削減を見込んでいる。
会見に出席した米Microsoft プレジデント マイクロソフトビジネスソリューション担当のKirill Tatarinov氏は、「Dynamics CRMは日本でも非常に人気のある製品。KDDIでも何千という従業員が使ってくれている。自動車産業でも人気があり、Ford Motorではコールセンターや小さなディーラーでも使っている。しかし、日産とのプロジェクトは、規模や野心の面で匹敵するものがない」とコメント。
日本マイクロソフト 代表執行役社長の樋口泰行氏は、「(新システムが)日本市場、アジアとグローバルに展開するため、まず日本がしっかり成果を出せるようにする」とプロジェクトへの意気込みを見せた。
左から、行徳セルソ氏、Andy Palmer氏、Kirill Tatarinov氏、樋口泰行氏