「Linuxの奇跡は、大きく2つのことを20年間かけて証明したことによって起きた」ーーーと語るのは、楽天 開発部 アーキテクトグループの技術理事であり、12年の歴史を持つOSS勉強会「カーネル読書会」を主宰する吉岡弘隆氏だ。
Linuxがオープンソースとして生まれてからの20年を振り返り、その足跡と果たした役割について語ってもらった。
世界を変えたオープンソース「Linux」
2011年はLinuxが生まれてちょうど20年目の年にあたります。この間に、Linuxをはじめとするオープンソースは、世の中を大きく変えてしまいました。
オープンソースがなければGoogleのような会社も登場しなかったでしょうし、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアも今とは違った形になっていたでしょう。Amazonなどが超分散システムを自ら構築してある種のデータセンターやサービスを提供するにいたっているのも、そのベースにはオープンソースがあったからこそです。オープンソースの上に、現在のインターネットの大企業の競争力が成り立っています。
また、この流れの中でソフトウェア産業の様相もガラリと変わってしまいました。商用ソフトを使うという構造から、オープンソースをどう活用するかという方向にビジネスの重心が急速にシフトしてきています。例えば、商用のソフトウェアで100万台のコンピュータを動かすのは膨大なライセンス料がかかるため、とても現実的ではありません。ところがLinuxのようなライセンス料が発生しないオープンソースであれば、それが可能です。今やLinuxは、携帯電話やテレビにも使われ、スーパーコンピュータの97%はLinux OSとなっています。
12年前にLinuxの創始者であるリーナス・トーバルズ氏が「Linuxによるワールドドミネーション(世界制覇)」をめざすといったとき、それはジョークでした。ところがそれが、ほんとうに起こってしまいました。このようなケースは人類史上初めてであり、リーナス自身も語っているようにある意味での「奇跡」です。
私が主宰する「カーネル読書会」も今年で12年目を迎えました。1999年の4月に「Linuxカーネルを読む会」として始めた当初から、会則だの目的だのという厳格な組織を作らず、面白そうなことを勝手にやるというスタンスで歩んできたこの読書会とともに、Linuxの奇跡が起こっていくのを見守ることができたのは、私にとって得難い経験でした。