本特集「三国大洋のスクラップブック」では、前回と前々回で少し回り道をして、米国の製造業で進みつつある「北米回帰の動き」や付加価値の高い仕事=「スマートジョブ」などに触れながら、大統領選挙の候補者らが想定していそうな比較的新しい種類の雇用のひな形がすでにあることを見ていった(註1)。
今回は、公開企業にとっては無視できないステークホルダーである株主(ならびに投資家)側の動きを簡単にみていく。
全体の基調にはそれほど目立った変化はない。しかし、アップルは米国時間3月18日に「手元資金に関する電話会議」の開催を発表した。この「手元資金」は976億ドルにもおよぶ。
一部でアップル株をめぐり巻き起こっている「ミニ・フィーバー」とも呼べる動きに対して、同社が公式にアナウンスする会議となるだろう。
ついに600ドルを超えたアップルの株価
米国時間3月15日、アップルの株価(AAPL)がついに600ドルを突破した(寄りつきで600.01ドルをつけた後利食い売りが出て終値は585.56ドルに)。
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第1回目の記事で触れた2月はじめの株価が460ドル前後(時価総額はおよそ4290億ドル)だったから、このわずか1カ月半の間に株価は約125ドル上昇。また時価総額も1100億ドル以上も増加した計算になる。
この間にあった主な出来事といえば、新型iPadの発表と発売、それに中国市場第3位の携帯通信キャリアであるチャイナ・テレコム(中国電信)でのCDMA版iPhone 4Sの取り扱い開始と、いずれもあらかじめ織り込まれていたもの。だから、それを持ってバブルとする意地悪な解釈も可能かもしれない。
けれども、株価収益率(P/E)もまだ17倍以下であり、市場における成長性についてもiPhone、iPadとも十分な伸びしろがあるという見方に立てば、まだまだ株価上昇の余地は残されており、これくらいの値上がりはあっておかしくないといえるかもしれない。
そうした議論は証券アナリストら本職の方々に委ねるとして、ここではアップルの株式が過去3カ月間で1.6倍弱(380ドル前後から600ドル)値上がりし、またこの1週間だけでも15%(524ドルから600ドル)近く上昇したという点を頭の隅に入れておいていただければと思う。(註の終わりに次ページへのリンクがあります)
註1:付加価値の高い仕事=「スマートジョブ」
ナイキ(Nike)が2月後半に発表したFlyKnitという軽量ランニングシューズも、そうしたスマート・ジョブをもたらす技術革新の産物と呼べそうだ。靴の上部(ソールとベロ以外の部分)が機械による編み物でできているこの製品(靴下にソールがついたようなもの、といえばいいか)、縫製作業の工数がわずか2つと、従来製品の20分の1程度だ。
人手に頼る工程数が激減したことで、もはや人件費の安いアジアの外注を使わなくてもいい水準まで全体のコストが下がっている。さらに完成品の輸送に船便を使っているため、それによって生じている時間的な機会損失まで考えあわせると、最大の消費地である北米に生産拠点をおくことは十分現実的な選択肢になっているという。
Is Nike's Flyknit the Swoosh of the Future? - Bloomberg