新入社員向け訓示、グローバルの意識強く - (page 5)

怒賀新也 (編集部)

2012-04-02 13:46

日本銀行 白川方明総裁

 105人の新入行員を迎えられてたいへん嬉しい。中央銀行は非常にユニークな存在だ。中央銀行の本質は「銀行券という誰もが無条件で受け取る通貨を自らの判断で発行できる力を持っていること」に求められる。日本銀行(日銀)はそれだけ強い力を与えられた組織であり、社会に対する責任も大きく、力の使い方に厳しい規律が求められる。

 日銀には、通貨を発行する力を使い「物価の安定」と「金融システムの安定」という2つの使命の達成が求められる。国内外の歴史の教訓を踏まえ、日銀には法的な独立性が与えられている。中央銀行とそこで働く職員は、何よりも専門家としての知識と使命に誠実であろうとする強い意志を備えていなければならない。どんなに時代が変遷しても変わらない、組織の遺伝子であると私は考えている。

 一方で、中央銀行は「社会や経済の変化に対応して進化し続ける存在」でなければならない。ちょうど40年前、1972年に日銀に入行し、ほとんどの時期を中央銀行の世界に身を置いた。この間に起こったことを振り返ると、1970年代には、固定為替相場制から変動為替相場制への移行と2度のオイルショック、80年代には、プラザ合意やわが国におけるバブルの生成、90年代には、バブル崩壊と不良債権問題、そして2000年代以降は、リーマンショックや欧州債務問題というように、経済、金融の大きな変動が続いている。一方、グローバル化や新興国の成長、情報通信技術のめざましい発展は、世界経済や日本経済に大きな変容をもたらす力となっている。

 皆さんが日銀で働いていくこの先、一体どのような社会、経済が待ち受けているだろうか。現在認識されている諸問題、例えば急速な高齢化やグローバリゼーションといった動向すら、見通すことは容易ではない。

 そうした中で、中央銀行が変わらぬ使命を達成し続けていくためには、何が必要か。私たち中央銀行の役職員は、どうあるべきか。私は、2つの力を身につけ、高めていくことが必要だと思っている。1つは、今起きていることを正確に認識し先行きを見通す力を磨くこと。もう1つは中央銀行としての「実務」を遂行していく力を不断に高めていくことだ。

 実務の大切さは、東日本大震災が発生した後の日銀の対応をみてもわかる。我々は、金融市場の不安を取り除くため、震災の直後から大量の資金を供給した。被災地で暮らす人が必要とする現金が不足しないよう、平日、休日を問わず、現金の輸送を行ったり、地震や津波で損傷した大量の銀行券や貨幣の引き換えを行ったりした。

 中央銀行の使命達成に向け、健康管理に十分留意して、各自が元気に活躍することを祈っている。

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