御代 クラウド企業(セールスフォース・ドットコム)に勤めている身ではありますが、データセンターのシステム上でERPが動いて、それをクラウドで利用……。といった話を聞くと、「クラウドの可能性はもっと大きいのではないでしょうか」と感じることがあります。
バックエンドで動いていたシステムを仮想化して、クラウドにもっていく--もちろんそれもクラウドの一つの側面ではありますが、究極は自社の顧客に向けて、社内のシステムを伸ばしていくことにあります。
御手洗 社内のITから顧客に向かって発信していく、ということでしょうか?
セールスフォース・ドットコム アライアンス本部 ISVアライアンス部 シニアディレクター 御代茂樹氏
御代 従業員のデスクトップPCや社内のクライアント/サーバなど、企業ITは長らく会社の中で完結するシステムでした。ところが、クラウドの登場により、社内ITをデスクトップを通じて顧客につなげるようになった。
セールスフォースの仕事はこの機会を生かし、フロントエンドの生産性を上げることだと思っています。この流れに沿う形で、スマートフォンやタブレットのように、デバイスもずいぶん変わってきました。
藤井 若い社員に聞くと、就職活動の際、スマートフォンを持っていないとセミナーにも参加できないし、Googleカレンダーを友達と共有していないと大事な情報をチェックできないそうなんです。そんな進んだコンシューマ環境で育った子たちが、会社に入って、旧来型のグループウェアの利用を強制されると、強いカルチャーショックを受けるとのことでした。
御手洗 まとめると、3.11は情シスのあり方を劇的に変えたわけではないけれど、モバイルやクラウド、ソーシャルメディアといったコンシューマライゼーションの流れを後押しするきっかけになった、ということでしょうか。私もそう思います。ただ、1つだけ、確実に変わったものがあるとするなら、それは今までかたくなに変わろうとしなかった、古い考え方の中高年層の頭の中だと思います。ベテランの情シス担当の中には「クラウド? モバイル? そんなもん必要ないよ」という人たちが多かったし、経営層も「セキュリティがちょっとねえ…」という漠然とした不安に駆られていたこともあって積極的ではなかった。
それが3.11で彼らははじめて恐怖感を抱いた。「このままの閉じたITではまずいのでは」という不安感が強くなったのだと思います。山下さんの指摘のように、大企業のトップはこのあたりの考えをかなり変えてきているように感じます。
NTTコミュニケーションズ 先端IPアーキテクチャセンタ 担当部長 山下達也氏
御代 たまに聞くのは「クラウドが情シスの仕事を奪う」という議論。私から言わせればバックエンドとかかわりをもたないシステムなんて存在しないし、バックエンドがなくなることもあり得ない。仮想化によってマネジメントがクラウドに移行したってことは、面倒だった部分を外部に預けられるようになったわけで、むしろ歓迎すべき事態。逆にITマネジメントはどんどん複雑化しているので情シスの仕事はかえって増える傾向にあると思います。たとえばいま話題のBYOD(Bring Your Own Device)がもっと普及してきたら、セキュリティレベルの見直しもしなきゃいけないし、そのほかにもいろいろとルールを規定する必要が出てくる。情シスの仕事がなくなるなんてことはないですよ。ただ質が変わるというだけです。
山下 ちょっと意地悪な言い方をすると、クラウドが「仕事のできない人をあぶり出す」という側面は少なからずあるかもしれません。昔、電子メールが流行りだしたころ同じような議論が出たことがあります。例えば平社員が部長に企画書を提出するとき、必ず間に入る人がいてその人を通さないと書類が渡らないようなシステムがあったりしました。電子メールのおかげで部下から上司に直接送ることができるようになった。
そうなると、間に入って他人の企画書に文句を添えて提出するようなことしかできなかった人は淘汰されるわけです。クラウドでもやっぱり同じことが起きていて、何も考えずに運用だけやっていたような人はこれからつらくなるでしょうね。そういう面では残酷といえるかもしれません。