新しいUIも「試行錯誤の積み重ね」で
アップルがポケットに入るような小型コンピュータを携帯電話の世界に持ち込み、市場の様相を一変させてしまったことは以前も書いた。また、そのためのキーテクノロジーとして「片手で操作できるタッチスクリーン式のインターフェース」という新しいUIをiPhoneに実装し、それがゲーム・チェンジャーとなったことも前に触れた。
だが、意外にも、そうした画期的な要素は地道な試行錯誤の積み重ねから生じた結果であることが、このコラムを読むと改めて理解できる。
iPhoneの開発に際して、「スティーブ・ジョブズは社内に二つのチームを編成し、互いに競わせた」という話は、ウォルター・アイザクソンの書いたジョブズ公認伝記本などでも書かれているので、割とよく知られた話だと思う。
この開発競争に負けたチームのリーダー、トニー・ファデルは、iPodを開発した功績で知られる人物だ。ファデルが2005年頃、サムスンとバング&オルフセンが開発した携帯電話のUI——ダイヤルに数字を配した端末に使われていたスクロールホイール式のUIを指して、「携帯電話にとっては、おかしな感じがする」と社内にメールしたところ、ジョブズから「これが答えになるかもしれない。スクロールホイールのまわりに数字を記したキーパッドを配するというやり方はある」との返事があった……。そんなエピソードがこの記事には記されている。

サムスンとB&Oが開発した携帯電話のUI
また、2006年春、一度は開発が決まりかけていたデザインを反故にして、新たに全面をタッチスクリーンが覆う初代のデザインに変えさせたこと、さらには鍵と一緒にポケットに入れても傷が付かないガラスをコーニングに無理矢理作らせたことなど、いずれも最初から正解などなかったことを浮き彫りにする逸話といえよう。
さて、この裁判で証言台に立ったスコット・フォーストル(関連記事:アップル幹部のスコット・フォーストル氏に注目すべき理由)は、iPhoneの開発にあたって「自分たちが大好きになれる携帯電話を作りたいと考えた」と述べていた(註6)。
今後、誰がiPhoneを葬り去るような製品を出してくるかは、まだわからない。アップル自身が、現在までのiPhoneを「過去の遺物」と思えるような新しい何かをいずれ出してくるかのかもしれない。あるいは、iPhoneやそのエコシステムに、自らの製品やサービスを脅かされている人間の中から、新しいものが生まれてくるのかもしれない(そうした危うい立ち場の人間は少なくないと思う)。
どちらにしても、もし新しい何かが実現するのであれば、フォーストルのような思いが出発点になると考えられる。
別の言い方をするならば、JK・シンが部下に力説した「iPhoneみたいなものを何か作ってくれ」という顧客(携帯キャリア)の要望に応えるアプローチでは、かなり難しいだろう。
(敬称略)
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註6:スコット・フォーストルの証言
"We wanted to build a phone for ourselves," Scott Forstall, who heads the team that built the phone's operating system, said at the trial. "We wanted to build a phone that we loved."
同様の発言は、ジャック・ドーシーのモバイル決済ベンチャー、Squareに移り、開発の中心となっている元アップル社員の口からも聞こえている。