ゴルゴ13から読み解く日本の家計

飯田哲夫 (電通国際情報サービス)

2012-09-25 12:15

 某氏より緊急の連絡が入り、何かと思えばゴルゴ13シリーズの最新刊に、国際金融ネットワークであるSWIFTが登場しているので読めという。SWIFTとは、世界200カ国、1万社以上の金融機関や企業が利用する国際金融取引のメッセージングシステムで、グローバル経済のインフラと言って良いものだ。

 そのSWIFTが何故ゴルゴ13に出てくるのか。設定はこうだ。山形に住む研ぎ師の老人のもとへ、ペルーからアメリカの銀行経由で定期的な送金が行われている。ストーリーの中では、この事実がSWIFTのメッセージを辿ることで明らかになる。さらには、ペルーの銀行の先には、ゴルゴ13のスイスの口座が絡んでいるらしいと。

 このストーリーの特異性は、ゴルゴ13から山形の研ぎ師への送金である点だ。通常、ゴルゴ13のストーリーにおいては、仕事の依頼は依頼人からゴルゴ13に対してなされ、その対価として多額の現金をゴルゴ13のスイスの口座へ振り込むこととなる。この場合も、仮に日本から送金を行うとすれば、SWIFTを経由して情報が伝達されることは変わらない。

ゴルゴ13と日本の家計

 ゴルゴ13への仕事の依頼は、その設定により、いろいろな国や機関、あるいは個人から行われる。その際には多額の現金が必要となるのだが、日本とアメリカと欧州の家計調査を見てみると、日本人はゴルゴ13へ仕事の依頼をしようとしているとしか思えないような勢いで現金をため込んでいる。もちろんそんな訳は無いのだが、そのくらい尋常ではない。

 今月20日に日銀より発表された資金循環統計によれば、日本人の家計の金融資産残高は6月末時点で1515兆円で前年同月比で0.1%増とほぼ変わらない。しかし、その資産構成は、その過半を占める現預金が更に1.8%増加して844兆円。一方、リスク資産である債券、投信、株式は、それぞれ7.9%減、10.6%減、6.7%減と大幅に残高を減らしており、合わせても182兆円に過ぎない。

 これだけだと、だからどうした? ということだと思うので、これを欧米と比較したらどうなるか見てみよう。

金融資産が減っているのは日本だけ

 日本銀行が6月19日に発表した「資金循環の日米欧比較」(PDF)という資料がある。この資料、現時点の家計資産構成の比較だけではなくて、リーマンショック前との対比も載せているのが面白い。

 大まかな家計の金融資産構成は、良く言われている通り、日本の現預金比率が突出して大きく(55.2%)、米国は逆に小さく(14.5%)、欧州はその中間(36.5%)といった具合だ。債券や株のようなリスク性資産の比率はその逆で、米国が大きくて日本が小さい。

 さて、問題はリーマンショック前と後の金融資産残高で、日本は2007年3月末から2012年3月末で、1575兆円から1513兆円へと約4%減である。一方、よりリーマンショックの影響を強く受けたであろう米国は50.7兆ドルから52.5兆ドルへと約4%増、欧州は18.1兆ユーロから18.7兆ユーロへと約3%増で、それぞれリーマンショック前を回復しているのである。

ゴルゴに仕事を頼むつもりでないならば

 各地域とも、リーマンショック前から後へとその現預金比率を高めてはいるが、ただでさえ非常に高い日本が、それを更に上積みするのは欧米との比較においては奇異にしか映らない。日本の家計の金融資産のみがリーマンショック前のレベルに到達できないことの一因は、現預金に偏重した金融資産のポートフォリオ構成にあるだろう。

 今後日本が高齢化社会を迎える以上、自らが働いて稼ぐこと以外に、これまで日本が蓄積した金融資産を国内外に投資して、そのリターンを稼ぐことにも長けていく必要がある。もしも、ゴルゴ13に仕事を依頼する予定が無いならば、現金を過度にため込むことはやめて、金融資産をポートフォリオとして管理し、リスク資産への投資を行っていくことが必要だ。

 強引な展開に付いてきて頂いてありがとうございました。

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飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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