PLM(製品ライフサイクル管理)ソフトウェアを提供する企業として知られるフランスのDassault Systèmesが、自社の位置づけを変えようとしている。単なるPLMではなく、製品が付加価値を生み出すようになるプロセスに着目した「3Dエクスペリエンス」を提供する企業になるという。
そのDassault Systèmesが11月20日と21日の2日間、ベルギーのブリュッセルにて「3DEXPERIENCE Forum Europe」を開催している。キーノートでプレジデント兼最高経営責任者のBernard Charlès(ベルナルド・シャーレス)氏が、3Dエクスペリエンスカンパニーとしての意気込みを語った。

Bernard Charlès CEO
Charles氏によると、Dassaultはこれまでにも自社の位置づけを発展させてきた。1980年代に3D設計ソフトウェアの提供企業として事業展開。1990年代にはDMU(デジタルモックアップ)の企業へと変革した。さらに、2000年代にPLMベンダーとして再度生まれ変わるという変遷をたどった。
新たに打ち出している3Dエクスペリエンスというコンセプトを、今後10年間かけて築き上げていく予定だという。
なぜ「エクスペリエンス」が重要なのか。Charles氏の直前にキーノートに立ったFortune 500 マネジメントアドバイザー 兼 『 The Experience Economy: Work Is Theatre & Every Business a Stage』著者のB. Joseph Pine II氏が説明している。
Pine氏は経済的価値の進化について、材料が商品に変わり、商品がサービス化され、最終的にサービスにエクスペリエンスが追加されるというプロセスを紹介。安価だった材料も、エクスペリエンスに発展することで価値が高まると いう。

Fortune 500 マネジメントアドバイザー 兼 『The Experience Economy: Work Is Theatre & Every Business a Stage』著者のB. Joseph Pine II氏
例に挙がったのはコーヒー豆だ。コーヒーを飲むための原料であるコーヒー豆は、そのままでは飲んだり食べたりできないので安価だ。その豆を挽いて、パッケージに入れると商品に変わる。新たな価値が生まれるのだ。次に、この商品がサービス化される。例えば、喫茶店が商品を使って顧客にコーヒーを出すと、ここでまた新たな価値が創出される。Starbucksは、このサービスに対し「さらにエクスペリエンスを追加することにより、世界中で店舗を展開するほど成功できた」とPine氏は指摘した。
「Starbucksでは、コーヒーを飲むという体験の場を提供している。顧客は自分の好みでコーヒーをカスタマイズすることもできる。人は皆、商品やサービス以上のエクスペリエンスを求めてStarbucksに行くのである」(Pine氏)

コーヒー豆の経済的価値が進化する過程
逆に、エクスペリエンスをコモデティ化してしまうと価格下落が起こり単なるサービスになってしまう。そのサービスもコモデティ化が進めば商品になり、さらに原料へとコモデティ化が進むこともある。Pine氏は「企業はどのようなエクスペリエンスが提供できるかを考えなくてはならない。でなければその企業もコモデティ化されてしまいかねない」と警告した。
Dassault Systèmesが3Dエクスペリエンスを提供する企業を目指すのも、こうした背景によるものだ。Charles氏は、同社が3Dエクスペリエンスのコンセプトを推進するにあたってのシンボルを公開。このシンボルをコンパスに見立て、「東西南北を示す4つの柱がある」とした。

3Dエクスペリエンスのシンボル
「まず北は“人”を表す。イノベーションを起こし、夢を実現するために人がコラボレーションする分野だ。西はメディアとしての“3D”だ。単なるツールではなく、何がそこに存在するのか見いだし、意志決定するためのメディアだ。東は“情報”だ。ビッグデータをはじめとする各種情報をうまく使いこなす必要があるためだ。そして南は“V+R”、つまりバーチャルとリアルの略で、バーチャルがリアルな世界を拡張するという意味だ」(Charles氏)
「4つの柱をDassaultの製品が支えている」とCharles氏。人を支えるのがコラボレーションツールの「ENOVIA」やソーシャルアプリケーションの「3DSwYm」、3Dを支えるのがCAD製品の「CATIA」や3Dモデリングおよびシミュレーションソリューションの「GEOVIA」、3次元設計の「SOLIDWORKS」だ。情報を支えるのはエンタープライズサーチの「EXALEAD」や買収したダッシュボードソリューションの「NETVIBES」、V+Rを支えるのが3Dコミュニケーションツールの「3DVIA」、デジタルマニュファクチャリングツールの「DELMIA」、リアリスティックシミュレーションの「SIMULIA」となる。
Charles氏は「バーチャルな世界を発展させることで、現実の世界も良くなる。だからこそ、われわれは3Dエクスペリエンスで製品や自然環境、人々の生活を調和させたい」と述べた。