プライスウォーターハウスクーパースが11月21日に発表した「役員報酬サーベイ2012」によると、企業の役員報酬の水準は前回調査よりも常務以上の上位役位で減少傾向にあるという。社長で4.3%減、全役位の報酬総額で5.7%減となっている。
同社は日本企業の役員制度や報酬水準の動向を把握するため、2007年から役員報酬を毎年調査。外資系企業の日本支社を含む日本企業を対象に役員各位の報酬水準や統治(ガバナンス)体制の実態などについて上場企業と非上場企業の計67社、対象役員数1393人から回答を得ている(役員報酬やガバナンスなどの関係については関連記事を参照)。
業績連動報酬や株式報酬など企業での変動報酬の導入比率は、今回の調査で、前回調査に引き続いて80%を超えており、大きな変化がなかったという。業績連動報酬の損金算入基準を考慮し、あえて業績連動報酬の導入を避け、翌期の固定報酬に反映させるなど、ほかの報酬項目により業績連動性を確保する工夫をし続けている企業が一定数存在するためと推測している。
中長期的なインセンティブとしては、ストックオプションと株式報酬型ストックオプションが主流になっている。この導入比率も大きな変化は見られなかった。株式報酬型ストックオプションは、権利行使価格を低く設定し(多くは1円)、株式譲渡と同じ効果を狙ったストックオプション制度だ。
株式報酬は、情報通信業や卸売業での株価上昇の影響もあって、社長の株式報酬上位層で顕著な水準上昇がみられている。これらの業種では、報酬に占める株式報酬比率が相当な割合であり、欧米型の役員報酬に近い形も徐々に出現していることがうかがえると説明している。
株主から批判されている役員退職慰労金について、これまで廃止後の代替報酬振替先として固定報酬に次ぎ株式報酬型ストックオプションが選ばれるケースがあった。今回の調査では、その傾向が鈍化し、業績連動報酬の振替件数の進展が確認されたという。役員などの勤続年数が5年以下の特定役員への税制優遇廃止措置を受けて、株式報酬型ストックオプションへの振替メリットが減少したことも、その一因と考えられるとしている。
役員の報酬をどのように決めているのかを示す報酬ポリシーについては、項目と内容でその策定と公開の状況に大きな差があるという。役員報酬を決定する上で重視する観点について開示している企業は、全回答企業のうち上場企業53社中60%となっている。
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ガバナンス強化に向けた取り組みとして注目される報酬委員会について、設置していると回答した企業は43%、2011年度の平均開催回数は3.5回となっている。開催回数は増加傾向にあり、約半数の企業が年3回以上開催している。この動きについては、改正内閣府令で有価証券報告書で報酬額とポリシーをより詳細に開示することを求められたことで、報酬決定プロセスの透明性を高める動きが進展していると説明している。
ガバナンス強化の一環として注目されているのが、社外取締役だ。回答企業の77%が社外取締役を選任しており、2010年度と比較して2%の増加となっている。選任されている社外取締役のうち、一定の独立性がある社外取締役の比率は61%となっている。
社外取締役については、2012年の会社法改正要綱で選任義務化が見送られている。だが、監査役会設置会社であり有価証券報告書を提出する会社は、社外取締役を設置しない場合には、社外取締役を置くことが相当ではない理由を事業報告書に開示することが義務化されている。この結果として、企業における社外取締役選任、独立性担保への意識は今後、高まっていくことが予想されると分析している。