企業がITを活用してビジネスを拡大しようとする際、さまざまなメディアがデジタル化している現実から目を背けられなくなってきた。音楽業界などは典型例といえる。
新連載『メディア・デモクラシー講座』では、こうしたメディアのデジタル化のビジネスへの影響を、音楽などさまざまな業界の動向、データ解析の専門家として今後強く求められるといわれるデータサイエンティストの在り方など、多彩な切り口から解説する。(ZDNet Japan編集部)
メディア・デモクラシーの夜明け
街を歩くと、当たり前のようにいたる所でスマートフォンに熱中し動画やゲーム、音楽を楽しむ人を見かけるようになりました。
以前のNapsterやWinnyといった少し「危うい」雰囲気のあるファイル共有サービスで動画や音楽ファイルを交換していた時代とは明らかに異なり、テレビ局や映画会社、レコード会社も本格的に配信ビジネスに参入しています。
相互のサービスがコラボレーションするだけではなく、ソーシャルメディアで共有され、サービスがさらに磨かれていくような、いわば「人民の、人民による、人民のためのメディア」、すなわち「メディア・デモクラシー」と呼んでもいいような時代が始まったのです。
このコラムではさまざまなテーマを取り上げながら、メディア・デモクラシーとは何かを皆さんと一緒に考え、さらに未来のメディアをともにつくり上げるきっかけにしていきたいと思います。
それは音楽から始まった
メディア・デモクラシーを理解するに当たり、インターネット上のファイル共有の動きは避けられないテーマです。音楽、映画、ゲーム、書籍といかなるメディアもデジタル化されればデジタルファイルに過ぎません。
インターネット上では簡単にファイルを共有することが可能で、今までのレコードやテープといったリアルメディアがデジタル化されれば、そのファイルを自由に共有したいという欲求に突き進むのは時間の問題だったと言えるでしょう。
当時、カセットテープやビデオテープにコンテンツをコピーして楽しんでいた世代には、質の劣化のないデジタルデータと無限の相手とデータを共有するためのインターネットの可能性は果てしないものでした。その流れの中で、音楽ファイルをP2Pという技術を駆使して自由に共有しようとしたのがNapsterです。
Napsterのアプリケーションは無償でダウンロードできました。聴きたい楽曲が、インターネットにつながっている世界中のどこのPCのハードディスクに存在するかが分かり、自分のPCから直接音楽ファイルをその音楽ファイルが格納されたPCから入手できたのです。聴きたい音楽を無償で入手できるサービスがいきなり登場したわけです。
しかしこのサービスは音楽業界からすれば著作権を無視した非合法的なサービスとして、アメリカレコード協会やアーティストから提訴され、敗訴となり姿を消しました。この事件はインターネット社会にさまざまな問題を提起しました。
特にかつて有料だったコンテンツが、デジタルファイル化されるといとも簡単に共有できてしまうという事実は、コンテンツ提供サイドからは脅威だったのです。