Platner氏の影響で、SAP社内でも2000年代初めからデザインシンキングを利用している。例えばSAPがエンタープライズでの「ゲームチェンジャー」と呼んでいるインメモリデータベースのHANAの場合、2010年のSAPPHIREでHANAを披露した際にPlattner氏は、デザインシンキングを用いて分散環境でコラボレーションを行ったことを明かしていた。
SAPのMeeta Patel氏
HANAは同社のソフトウェア製品では最も急成長を遂げた「ヒット製品」となったが、インメモリ利用による高速さなど技術面での優位性だけでなく、Amazon Web Services上での提供などビジネス戦略もモメンタムに加勢した。
このほか、モバイル、クラウドなど、業務アプリケーション分野で大手のSAPは、自らが作ってきたエンタープライズを積極的に変革している。その結果、13四半期連続でソフトウェアとソフトウェア関連の売上げを2ケタ成長させるなど、業績も好調だ。
SAPは現在、デザインシンキングを使ってユーザー体験分野の革新を進めている。このような社内での取り組みと平行して進めているのが、顧客への拡大だ。SAPPHIREで設けたデザインシンキングコーナーはその一環である。
顧客向けのデザインシンキングチームを率いるMeeta Patel氏はその狙いについて、「顧客のイノベーションを促進し、戦略を支援すること」と説明する。Patal氏が率いる顧客向けチームは3年前に発足し、2012年夏にボードメンバーのRob Enslin氏(2007年までSAPジャパンの社長兼CEOを務めた。現在グローバルでセールス担当プレジデント職に就く)がスポンサーとなったことで急速に拡大した。
Enslin氏が担当するボードエリア全体(営業、マーケティングなど顧客向け活動全体)に広げているという。現在、ほぼ全てのSAPオフィスがデザインシンキングスペースを持ち、顧客を招いて実践してもらえる状態にあるとのこと。社員に対しても、デザインシンキングの考え方を理解し、それに基づいて話ができるようにトレーニングを展開している。
カラフルな付箋やペンを使うのも特徴。区分けしやすいからだ。
デザインシンキングを顧客に拡大することで、顧客はSAPが提案する新技術について、自社に与える価値を理解できるようになる。これが、HANAやモバイルなど既存の流れを大きく変える製品や技術の受け入れにつながる。
「機能的特徴、技術スペックの話をすることなく、技術が自社、そして自社顧客にどのような意味を持つのかの理解につながる。つまり、技術と人間への意味を結びつける」とPatel氏。
メリットは、製品の受け入れだけではない。顧客と共に進めるデザインシンキングのステップを通じて、SAP自身も自分たちの技術がどのように利用されるのかの理解を深めることができる、とPetal氏は説明する。これは、BtoBtoCへの拡大、HANAによりプラットフォームカンパニーを目指すというSAPの戦略にも合致する。
もう1社、デザインシンキングのメリットを体感している企業がある。100年以上の歴史を持ち、通信バブルと業界再編の中を生き残ってきた通信機器最大手のEricssonだ。本拠地はスウェーデンだが、シリコンバレーに持つ研究拠点では2010年頃からデザインシンキングとベンチャーの考えを社内で実践するプログラム「INNOVA」を展開している。