エリック松永のメディア・デモクラシー講座

「テレビ番組制作の黄金時代」からこれからのメディアの価値を再考する

松永 エリック・匡史(プライスウォーターハウスクーパース)

2013-08-09 18:00

どうメディア業界を盛り上げていけばいいのか

「メディアデモクラシー講座」筆者のエリック松永氏
「メディアデモクラシー講座」筆者のエリック松永氏

 現在メディア業界はインターネットの盛り上がりとは逆行し縮小傾向にあります。これは、無料動画サイト、無料音楽サービス、定額聴き放題サービス等を通して、メディアのコンテンツが安価でかつ即入手できる状況を考えると異常な事態です。観たい、聴きたいコンテンツが周りにいくらでもあるのに手が出ないお金を払わない、それは何故なのでしょうか?

 最新の技術動向を追いかけるのを少し休み、そもそも過去、メディア業界が元気だった頃、なぜ皆がドキドキ、ワクワクと夢中になってコンテンツを追いかけていたのかを考えましょう。ということで、当時のキーマンをゲストにお招きし、インタビューを実施しました。

 今回は独立系映像制作のパイオニアであるテレビマンユニオンで数々の名作をプロデュースした碓井上智大学教授をお招きしています。

“ワクワク”する権利を奪われてしまった--現在のテレビメディアの課題

エリック松永 まず、あえてメディアデモクラシーという言葉を使わせていただきます。わたしが提唱するメディアデモクラシーとは、インターネット時代になり、映画、音楽、ドラマなどのコンテンツがテレビだけではなくタブレット、スマートフォンの中で氾濫するなか、なぜかわれわれはワクワクしてコンテンツを追いかけることが極端に少なくなってしまったように感じるのです。

 ワクワクはコンテンツへの欲求の重要な部分で、購買にも直結する。だからこそ、もう一度ワクワクするために過去からなぜわれわれがワクワクしたかを棚卸しし学ぶ。そして勿論そのままの形ではなく、それを現代の環境に再現する。そうすることでワクワクを取り戻し市場を活性化する。今こそメディアデモクラシーが業界に必要だと至ってシンプルに考えています。

テレビは、かつて圧倒的なトップメディアだった

名作と呼ばれる数々のテレビ番組をプロデュースした碓井上智大学教授
名作と呼ばれる数々のテレビ番組をプロデュースした碓井上智大学教授

碓井氏 メディアデモクラシー、大変興味深い考え方と思います。わたしもワクワクの気持ちが今の時代に欠けてきていると肌で感じてきました。実は、わたしになりにどうしてそうなってしまったのか考えたことがありました。

 わたしはテレビを軸に活動してきましたが、テレビ放送が始まって今年でちょうど60年です。ただ、古いか新しいかで言えば、写真が200年、映画が100年なので、ようやくテレビというメディアが一人前になりつつあるのかなととらえたいです。だが、一方で60歳をすぎもう還暦、あとは衰退あるのみだという人もいます。

 いずれにせよ、60年たってテレビというものが世に出た当初とはだいぶカタチが違ってきています。特に、ここ10年、もっとつめればこの5年くらいで大きな変化が起こってきていると考えています。

 時系列に考えてみると、テレビというメディアが1953年にスタートしたころは、映画という大きなメディアがそこにありました。毎週新作を見に映画館へ通っていたところにテレビが入ってきて、家庭で番組を視聴できるようになった。そして、あれよあれよという間にテレビが映画を追い抜き、あっという間に主役に躍り出ました。つまりここで、主役は映画からテレビへ、という世代交代が起こったわけです。

 そういう意味では、現在は、長い間お茶の間のメディア王として君臨してきたテレビの位置付けが変わってきたということなのかもしれないです。いままで圧倒的なトップ、主役だったテレビが、デジタルメディアの一員、いうなれば大勢の中のひとつ、one of themになってきているのではないでしょうか。

 ただし、わたしはこれを悪いことだとは思っていません。テレビ産業、放送産業という側からみれば売上低下、視聴者のテレビ離れというのは切実な問題としてあるとは思います。問題は、「テレビはデジタルメディアの一員になった」という事実を業界は認識せずに、60年前と同じビジネスモデルを続けてきたということです。

 まさに、今そのツケが出てきているのではないでしょうか。重要なのは、「今のリアルな現実をきちんと見ましょうよ」ということと、「テレビというメディアが持っている原点を振り返りもう一度話し合いませんか」ということだと思います。

 かつては(業界に)元気がありました。特に草創期にはフロンティアとしての活気と面白さがありました。放送開始60年をきっかけに、デモクラシーという意味で視聴者と制作者の双方が、もう一度テレビというメディアを使って、ゼロから新しいことをやり始めるべきではないでしょうか。

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