企業の情報システムが、クラウドや仮想化技術の進展により大きく変容しようとしている。これまでは、高性能なハードウェアを活用していたシステムを、仮想化技術とオープン系ハードウェアを組み合わせたシステムで代替、刷新したり、最近では複雑なネットワーク体系全般をすべてソフトウェアで定義する動きも勢いが増している。
一方、パブリッククラウドを部分的に利用しながら、既存のオンプレミスシステムと接続するというニーズも増大している。すべてのシステムがクラウドに置き換えられることはないと見られているものの、クラウド化が進行する範囲は日々拡大している。情報システムの構築に際し、クラウドが前提とされるようになった場合、システムインテグレーションの手法は変化し、バックアップの考え方も根本的に考え直す必要も出てくるといえるだろう。
この特集では、仮想化とクラウドが既存の企業ITに与えるインパクトを考える。
IT投資意欲は依然として低調、望めぬ高成長
国内のIT関連産業を取り巻く環境は、決して順境とはいえない。景気全体が依然、完全に復調している段階ではないとともに、ここ数年、企業のIT投資意欲に回復が見られないからだ。
アイ・ティ・アールの調査によれば、2011と2012年度とも、IT投資は低成長を脱したといえるような状況ではない。IT予算の増減実績をみると、2011年度は、「増額した」と回答した企業の割合は24.8%だったが、「減額した」は20.5%だ。2012年度は、「増額した」が25.5%、「減額した」は22.2%だった。「減額した」企業が若干ながら増えた一方、「20%以上の増額」と答えた企業は4.9%から7.2%となるなど、全体としては改善が見られるが高成長には程遠い。
同社では、2013年度の予想もしているが、「増額」を見込んでいるのは22%と2012年度より減少している。さらに「20%以上の増額」は6%となるなど、IT投資意欲は前年度より減速するとの見通しだ。しかも、「売上高が1000億円を超える大企業では、2013年度のIT予算がマイナス成長となる見込み」としている。
五輪を支えるインフラの進化
ITのコモディティ化はSIへの逆風を加速
IT産業への向かい風は、それだけではない。ある企業の最高情報責任者(CIO)は「ITはコモディティ化が進んでおり、例えば、従来はIT部門に依存していたような事柄を事業部門でも扱う、といったことも以前よりは容易になる。事業部門でも、システムのインフラはクラウドに任せればいいのではとの意見も出てきた」と話す。企業の情報システムが完全にクラウドに取って代わられるなどとの見解はまずない。クラウド事業者自体、必要な部分はオンプレミスを残せばいい、としている。だが、システムインテグレーター(SI)にとって、極めて厳しい状況が迫っている。
SIといえば従来、個別の受託開発を中心に、商用パッケージを用いた導入支援、ハードとソフトの販売、運用、保守、といった業務に従事してきた。しかし、クラウドビジネスが大きく成長を遂げる中、顧客企業がクラウドを活用すれば、これらの既存事業は需要そのものが大幅に縮小するのは不可避だろう。SIは、今までの事業構造に固執し、拱手傍観(きょうしゅぼうかん)していれば、大変な打撃を受けることとなる。