「ジョニー・アイブの原点回帰」という見方
やはり「筋金入りのAppleファンボーイ」を自称するM.G. Siegerは古巣のTechCrunchに寄稿したコラムの中で、iPhone 5cについて、2012年暮れからAppleでハードウェアとソフトウェアの両方を手がけられることになったデザイナーのJony Iveが、「iOS 7ありきで設計したハードウェア」といち早く指摘していた。
・Forget “Cheap”, The iPhone 5c Is Clearly The iPhone Jony Ive Wanted For iOS 7 - TechCrunch
Iveのデザインは周知の通り、ある時期からどんどんと「飾りを削る」方向で進んできていた。iMacの、特に画面=本体部分の薄型化などがその典型だと思うが、「もう次には削るところもなさそう」と思えても、さらに薄く、少なくともそう見えるようにしてきた。素材や色使いにしても然りで、iOS端末にしても、Macにしても、「アルミ+ガラス」というのがすっかりお馴染みになり、色のほうも白、黒、シルバーの組み合わせのバリエーションが中心で、iPodにみられるカラーバリエーションはむしろ例外的に思えるような感じだった。
しかし、そんなデザインをするIveも、元々は「キャンディカラーのiMac」で世の中に頭角を表した人物であり、iPhone 5cのデフォルトの壁紙(半透明のカラフルな画像)をみると、そのことを思い出す……などとSieglerは書いている。
私見になるが、Jony Iveのこのカラフル路線への方向転換によって、ふたつの大きな問題が解決されそうだと私には感じられる。2012年の「iPhone 5」発売の頃に、「製造(量産)も難しいようなものを設計して、この後どうするんだろう」「薄く、軽く、しかもより高性能・長時間駆動という進化の方向性では、いずれ壁に突き当たりはしないか」といった旨のことをそれとなく書いていた。
形状のデザインにしても同様で、「四角い形をして、角が丸まっていて、ディスプレイのガラス面を指で操作するもの」という枠組みから外れるようなものはほぼ出てきそうにない、だとすれば変化の余地もあまりないのでは……と感じていた覚えがある。
この2つのうち、まず前者については、5cにポリカーボネートの筐体を採用したことで、傷つきやすい(歩留まりがよくない)という製造上の問題はかなり回避できそうに思える(代わりに、前のものより重くなった、というトレードオフが生じたにせよ)。Appleが、5cの予約注文を受け付け、5sは予約を受け付けないことにしたのは、そうした供給側の事情によるものではないか、などとする見方も出ている。2012年の、長らく続いた品薄状態に嫌気して、しばらく購入・買い換えを見送ったという消費者も少なくなかったはずと考えると、この選択はかなり実際的かつ賢明なものと思える。
一方、後者の点については、まだ正直よくわからない部分が多い。ハードウェアの外見とソフトウェアのUIとに一貫性を持たせる、というのはMacとOSXではすでに比較的前から行われていたこと……その線で考えを進めていくと、iPhoneでも3色(白、黒、グレイもしくはシルバー)のハードウェアという縛りがあっては、ソフトウェア側をモノトーンにするしか手がなくなる。Iveはこの袋小路がみえていて、一気にカラフル路線に転換したのだろうか……といった想像も働くが、この方向転換で手に入れた「色」をIveがこれからどう駆使して製品・サービス全体の競争力につなげていくのか……わからない、というのはそういうところについてある。
また、GigaOM主筆のOm Malikが指摘しているように、そもそも競争(差別化)のポイントが別のところに移りつつある、という点も見逃せない。Malikは最近、Motorolaの「Moto X」を発注したそうだが、「Google Nowの存在を前提に企画されたMoto X(のようなスマートフォン)は、毎日生活していく上で手放せないもの」と指摘。それ(Google Now)に比べると、iOSの「Siri」はオモチャも同然であり、「Appleが今後も戦い続けていくためには、インターネットやクラウド関連にもっと力を入れないといけないことは明らか」などと書いている。そうなるともう各社の総力戦であり、John Ive(らデザインチーム)の力だけでは如何ともしがたいところ、となろう。
IveはiPhone 5cで、少なくとも製品デザインと製造に関する大きな問題を解決したかに見える(本当にそうなったかどうかは、今後の市場の反応次第) 。だが、Appleにはもう1つ「新しいビジネスモデルを見つけ出す」という課題が残っているようにもみえる。「ハードウェアの販売でマネタイズする」という現在の形が、一部の先進国市場でしか機能しない、という指摘が無くならないからだ。この問題の答えを見つけない限り、Appleは少なくともスマートフォン分野では「ラグジュアリーブランド」として生き残るしかなくなるということでもあるが、これについては、次回記したいと思う。