「就職に有利な学問(学部)」や「高い収入を得られる専攻分野」といった話題は、昔から人の関心が集まる話題のひとつかと思う。最近も「理工系学部では近年、女子の受験生が増加。『就職に有利』という思惑に加え、第一線で活躍する女性研究者の姿も理系志望を後押ししているようだ」といったニュースを目にした(大学受験のシーズンが終盤戦ということにそれで気付いた)。
こうした話題に関心が集まるのは洋の東西に関係ないようで、たとえば「分野別の費用対効果の比較」や「理系と文系、どっちが得か」といった米国発のニュースや記事をよく見かける(特に卒業式シーズンの6月から新学年が始まる9月にかけては、毎年そうした話が“定番ネタ”になっている)。
また「学資ローン」(student loan、親ではなく本人が卒業後に返済するもの)を巡る話題もよく見かける。
「1人あたりの平均借入額が3万ドルに近づいてきた」「米国全体では貸付残高が昨年末時点で100兆ドルを超えた」「計画通り返済できない例も増え続けている」といった類の話で、それも考え合わせると“割のいい仕事”につくというのは余計に切実な問題という感じもする(GoogleやAppleの通勤用シャトルバスの一件で、サンフランシスコ市の開いた公聴会に出席していたGoogle女性従業員の「(Googleに勤めているからといって)誰もが大金持ちというわけではない(略)学校を出てから10年経った今でも学資ローンを返済し続けているという点では、世間の大勢の人と変わらない」といった話も思い出される)。
分野別の比較で言うと、いつの頃からか「理系(Science, Technology, Engineering, Math:STEM)の、特に技術系のサラリーが一番高い」というのがほぼ定説になっている。
たとえば、2014年初めにForbesの記事で紹介されていたNational Association of Colleges and Employers (NACE)のデータ(学卒者の平均初任給の比較)では、1位がエンジニアリング(6万2600ドル)、2位コンピュータサイエンス(5万9100ドル)、3位ビジネス(5万5100ドル)、4位コミュニケーション(4万4600ドル)、5位数学&科学(4万3000ドル)、6位教育(4万600ドル)、7位人文・社会科学(3万8000ドル)などとなっている(ただし「数学&科学」の中に具体的にどんなものが含まれているかなどは記されていない)。
この背景にあるのはSTEM人材の需給のミスマッチで、2013年の移民法改正を巡る議論の中でも、よくそのことが話題になっていた(Mark Zuckerbergが叩かれていた政治団体FWD.usの一件など)。人材不足の深刻さについては異論も出ているようだが、このところの米テクノロジ業界の羽振りの良さから推測すると、こうした分野の人材が“売り手市場”というのはまったく不思議なことではないかと思う。
さらに、いわゆる「データサイエンティスト」など人材の供給ルートがまだ確立していない職種の場合は、この“売り手市場”の傾向がさらに著しいといった話も目にする。それに対して「本当に人文系は役に立たないのか」といった議論を時々見かけたりもする。
Marc Andreessenが2年半ほど前に「ソフトウェアが世界を飲み込んでいく(“Why Software Is Eating The World”)」と予言めいた発言をし、その後、この予言の正しさを裏付けるような動きがいろんなところで起きている。そのことを考え合わせると、「ソフトウェアあるいはアルゴリズムを考え出せる人間に高い値段が付く」というのは極めて自然なことにも思われる。
ところで。
世の中とは不思議なもので、ある方向への流れが勢いを増していくと、どこかの段階でそれにカウンターをあてるような別の流れ(の芽)が生じてくる。単に人間が飽きっぽいからかもしれないが、同時に“陰陽(Yin & Yang)”といった古くから考え方なども思い出される……。