松岡功の一言もの申す

技術者は世界標準を生み出す気概を持つべし

松岡功

2014-08-07 13:14

 世界標準になるようなインターネット技術が日本からなかなか生まれてこない……。こう訴える通信業界のご意見番が語る見解に筆者も共感を覚えたので、ぜひ取り上げておきたい。

日本が世界標準技術を生み出すためには


スピーチを行うIIJの鈴木幸一会長兼最高経営責任者(CEO)

 発言の主は、インターネットイニシアティブ(IIJ)の鈴木幸一会長兼最高経営責任者(CEO)である。1992年にIIJを創業し、日本にインターネットを持ち込んだ立て役者の一人として知られる同氏が語る見解は、いつも示唆に富んでいる。

 今回、鈴木氏の話を聞くことができたのは、IIJが先ごろ開いた記者懇談会でのスピーチだ。記者懇談会は同社の本社移転に伴い、新オフィスの披露も兼ねて開催された。

 鈴木氏は、まず現状についてこう語った。

 「インターネットは今や社会を支えるものとなり、多くのビジネスを生み出している。だが、その基盤となる技術を生み出してグローバルに普及させたのは、ほぼ米国を中心とする海外の企業だ。日本ではその基盤を利用する技術こそ発展しているが、基盤に関わるところで世界標準になるような技術を生み出せていないのが現状だ」

 では、なぜ日本は世界標準になるようなインターネットの基盤技術を生み出せないのか。鈴木氏はインターネットを活用する最新トレンドであるビッグデータの話になぞらえてこう説明した。

 「ビッグデータを活用するうえで必要となる収集や分析などの技術は、日本も海外に比べて後れをとっているとは思わない。しかし、ビッグデータの世界を大きな産業として育て上げていくために必要な基盤技術というのは、ビッグデータを活用して何ができるのか、何がしたいのか、どうすれば大きなビジネスになるのか、といった観点から考えないと発想すら浮かんでこない。日本にはそのマインドがまだまだ乏しい」

米国のコンテンツ配信の新たな動きに注目

 こう語る鈴木氏も、IIJで世界標準になるようなインターネット基盤技術を生み出そうと奮闘してきた。一部の技術については世界が認めたものもあるが、「まだまだ力不足」と悔しい思いを隠せない様子だ。では、もはや日本には基盤技術で世界をリードするチャンスがないのか。ここからの話が鈴木氏の真骨頂である。

 「今、注目しているのは米国でのコンテンツ配信の動き。配信の仕方において、電波や光回線、ワイヤレスといった境界がだんだんなくなってきている。これはつまり、これまでのような放送局や通信事業者といった業態の境界がなくなることを意味する。となると、高速なコンテンツ配信は今後、まず光回線が中心になってくるだろう」

 「そのコンテンツで今後注目されるのが、4Kや8Kの超高解像の映像だ。4Kや8Kの映像を実現する技術は日本が先陣を切っている。加えて、日本は世界で最も安く高速通信を利用できるネットワーク環境が整備されている。この両方を組み合わせて超高解像の高速コンテンツ配信を行える基盤技術を生み出せば、それが世界標準になる可能性は大いにある。そして、それがワイヤレスでも使えるようになれば、将来みんなが使うスマートフォンへのコンテンツ配信にも広がる。肝心なのは、世界標準になるような技術を生み出してやろうという気概だ。私もオフィス移転を機に、あらためて気を入れ直してがんばりたい」

 日本の技術者は世界標準を生み出す気概を持つべし ――。 これが鈴木氏の腹の底からのメッセージである。

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