ニューヨーク発--1983年12月、Apple共同創設者のSteve Jobs氏はニューヨークシティにあるIBM本社の外で、同社の看板に向かって中指を突き立てた。
それから30年強の時を経て、Jobs氏の長年の盟友で最終的に同氏の後継者となったTim Cook氏は、宿敵のIBMと提携することで、ライバル関係を協力関係に変えた。
Apple観測筋は驚いた。長年のファンや批評家、専門家の多くが想像だにしなかったことだからだ。しかし、Appleの「iPad」がタブレット分野で空前の成功を収めた後、市場シェアを徐々に失い始めていたことと、IBMが最先端を行く存在であり続けたいと望んでいたことを併せて考えると、両社の提携は少なくとも表面的には、双方の利益のために相違点を棚上げにした提携のように思えた。
しかし、この提携が長期的に発展できる可能性はどれだけあるのか、という疑問は残った。Appleは競合他社と異なり、エンタープライズ市場にまだそれほど深く入り込めていないこともその理由の1つだ。
両社の提携の要点を振り返ってみよう。
AppleとIBMは、各業界に特化した100以上のアプリに関して協業を開始する。アプリは主にiPad向けだが、「iPhone」向けのアプリも開発される。IBMはAppleの「クール」な要素を手に入れると同時に、自社のアナリティクスおよびデータプラットフォーム、さまざまなテクノロジやサービスを、ビジネス、金融、医療、電気通信といった分野のAppleユーザーにもたらす。
こうしたアプリの第1弾は2014年中に登場する予定で、2015年にはさらに多くのアプリが提供される。
両社の提携には、サービス、サポート、モバイルデバイス管理も含まれる。IBMと手を組んだことで、Appleは独力では不可能な規模でエンタープライズ分野に進出する足がかりを得た(同社がFortune 500企業への浸透を深めるためには、この足がかりが必要だ)。一方、IBMはAppleという重要なパートナーを得て、自社の発展途上のモバイルへの取り組みに、ある程度の支援を受けられることになる。
IBMは約10年前からPCやモバイルデバイスの生産を行っていない。Appleは、私物端末の業務利用(Bring Your Own Device:BYOD)によって企業にiPhoneやiPadを持ち込んでくれるユーザーに頼り続けている。そう考えると、今回の提携は理にかなうものだ。
だが、両社はどのように提携を進めていくのだろうか。
以下は米ZDNetが得た情報だ。
両社はモバイル分野でのシェア拡大を求めている。IBMはAppleのようなモバイル企業ではないが、モバイルを知り尽くしたコンサルタントを多く抱えている。一方、Appleにはエンタープライズに関する十分な専門知識がない。
両社は専門知識という輪の半分ずつを持っているが、それを組み合わせることで完全な輪が完成する。両社のターゲットは、医療、金融サービス、電気通信、輸送など、さまざまな垂直業界になるだろう。
この提携には大きな利益が見込まれる。10月下旬、JefferiesのアナリストであるSundeep Bajikar氏とMark Lipacis氏は投資家に宛てたメモの中で、AppleとIBMの提携によってAppleは新たに4200万人のユーザーを獲得する可能性がある、と述べた。これはiPhoneとiPadから数十億ドル規模の売り上げが発生するということであり、とりわけエンタープライズ分野で、特に求められているiPadの売り上げ増に貢献するかもしれない。
それがどのように実現するのかを説明しよう。
現在のIBMは、供給、アクティベーション、モバイルデバイス管理(MDM)を手がけて、iPhoneとiPadの再販、アクティベーションを自社で行うことが(初めて)可能になっている。Appleにはエンタープライズ担当販売チームがないため、企業は自社のiPhoneとiPadのニーズに応えるためにIBMを頼るようになるだろう。IBMはそれらのデバイスを販売し、企業が必要とするアプリ、ソフトウェア、ポリシーをプリインストールして、すぐに使える状態に構成する。
IBMは既存のビッグデータ、アナリティクス、ソフトウェアスタックを利用して、カスタムアプリ向けのアプリ開発も提供する。
提供:IBM/US Open