日本IBMは11月10日、事業戦略を説明する記者発表会を開催した。IBMが注力するエンタープライズIT業界が変化する中で「Watson」「クラウドコンピューティング」「エンゲージメント」の3つの領域と、全体を支えるセキュリティへの取り組みに、今後IBMが注力していくことを表明した。
年内で日本法人の社長職を退き、米本社に戻るMartin Jetter氏
また、年内で日本法人の社長職を退き、米本社に戻るMartin Jetter氏は、東京にクラウドデータセンターを今年末に設置すると発表。エネルギー供給、システム復旧のしやすさなどの面で、東京が最適と判断したとしている。
来日した米IBMのシニアバイスプレジデント、コーポレートストラテジー担当のKen Keverian氏は、「業界そのものが変化しており、IBMも例外ではない。その結果、ビジネスモデルも変わってきている」と切り出した。
戦略的な課題としてKeverian氏が挙げたのは「データが次なる天然資源であり、構造、非構造などさまざまなデータが爆発的に増加しており、そこからいかに洞察を得るかが課題」とした。
「ミリ秒という高速な情報処理の世界で適切な洞察を得られるかどうかが勝負を分ける。IBMはそこの手助けをする」(Keverian氏)
こうした背景の中で、Keverian氏はIBMが今後の戦略で注力する3つの領域を挙げた。
米IBMのシニアバイスプレジデント、コーポレートストラテジー担当のKen Keverian氏
1つは、コグニティブ(認知的な)コンピューティングとして展開するWatsonを含む「データ」の領域だ。アナリティクスを主軸にデータ活用をさらに高度化する。2000人の専門家が参加し、10億ドルを投資する大規模な取り組みだ。
シニアバイスプレジデントでエンタープライズトランスフォーメーション担当のLinda Sanford氏は、アナリティクスに関するIBMの社内事例として2つの例を示した。1つは、2億2500万ドルという収益性を高めた営業部門のリーダー向け推奨エンジンだ。ビッグデータを活用し、営業担当者を最適に配置できるようになったことで、顧客のカバー率が上がり、大きな成果につながった。
また、退職の可能性がある従業員をいち早く見つけ出し、個別の対応をするワークフォース分析システムも導入した。1億ドル以上の効果があった。
同社は、データサイエンティストのグローバルチームを編成。アナリティクスに基づく方法で投資利益率をより深く理解するようにしている。
IBMはWatsonだけでなく、10月29日にはTwitterとの協業も発表した。ハードウェア面でも、「Power+DB2 BLU」により、「同等スペックのx86ベースのシステムと比べて82倍速いデータ分析ができる」とアピールしている。
2つめの注力分野がクラウドだ。
Keverian氏は「クラウドがコンピューティングの経済性を変えている。クラウドというとサーバの稼働率などハードウェアの経済性と考えがちだが、それがすべてではない。共通のソフトウェアスタックを用いることで、従来は長い期間かかっていたようなシステムを2、3週間で構築できるようになる」と指摘した。
Keverian氏は、米Googleが1月13日に買収を発表したNESTに触れ、温度計という多くの人とって興味深いものではなかったものが革新を起こしていると指摘。クラウドについて「今まで成長していないと思っていた領域に新たな息を吹き込むもの」と表現した。
クラウドについての取り組みとして、短期間のシステム構築を促すPaaS「Bluemix」や、IaaS「Softlayer」を利用してハイブリッドクラウドとの1600のAPIを公開していることを挙げた。さらに、10月14日に発表したSAPとのアライアンスや、2014年末までに15のデータセンターを新設することに触れた。クラウドへの投資額は現状70億に上っているという。
シニアバイスプレジデントでエンタープライズトランスフォーメーション担当のLinda Sanford氏
3つ目の注力としてあげたのは、モバイルやソーシャル、セキュリティを含めたエンゲージメント分野だ。Keverian氏は社内の投資について「ソーシャル、モバイル、セキュリティに投資をシフトさせている」と話した。x86サーバ事業や半導体事業の売却などとはコインの表裏の関係と言える。
この中で特に、モバイル領域でのAppleとの提携について触れた。Keverian氏は「Appleはコンシューマー領域ですばらしい企業であり、IBMはエンタープライズ領域の企業」と述べ、良い協業関係を結べると話した。
既に2万人のIBMの営業担当者がiPadで顧客対応をしており、社内のアプリストアで70以上のアプリを提供している。
また、Sanford氏は社内のIT部門について、最高情報責任者(CIO)が新たに就任し、「いかにアジャイルな、スピードを持った文化を醸成するかを重視して変革を進めている」とした。