ベトナムでも「酒は飲んでも飲まれるな」
先ほども触れましたが、ベトナム人は小柄な割には意外と酒量が多いようです。数人で飲み始め、結局、缶ビール1ケース(330ml×24本)を飲み干して平然とバイクで帰って行ったというような話をよく聞きます。
加えてベトナムではビールの飲み方が独特で、日本では当たり前である「一人で自分のペースで飲む」という飲み方は、あまり好まれません。仕事上の飲み会であっても、食事をしながらいろいろと話をしつつ、話にオチがついた時や相手に同意するときにおもむろに杯を合わせ、ジョッキのビールを皆で飲み干していくというのが一般的です。
ベトナムでは日本のようにキンキンに冷えたビールにお目にかかることはそれほど多くない。そのため、ビールを注文すると合わせて氷も届けられ、氷を浮かせたビールをいただくことになる。横のビールの箱には「2015年新年おめでとう」の文字。1月1日の正月や旧正月といったイベントが近づくと、ビール会社がイベント仕様のものを売り出すのは日本と同じ。
そのため、日本人が一人でビールを飲んでいると、「雰囲気を楽しめていないのではないか」「料理が口に合わなかったのではないか」といった要らぬ誤解を与えてしまうこともあります。気の置けない者同士での気取らない会であれば、調子をつけて「乾杯!」の合唱をしつつワイワイ飲むことになりますが、それでも「一人で自分のペースで飲む」という飲み方はないと思っておいたほうがよいでしょう。
このような飲み方が主なので、アルコール度数が高いお酒が出てきたときには要注意です。ベトナム経済の成長に伴い所得も増え、ビールだけでなくワインやウイスキーを飲む機会も増えてきました。そして北部ベトナムの冬は特に冷え込みが厳しく10度を下回ることも珍しくないため、寒い時期を中心にウォッカを飲むことも一般的です。
しかし、こうした強いお酒であっても飲み方は先のビールの場合とたいして変わりません。ショットグラスにウイスキーやウォッカがストレートで注がれ、何かのタイミングごとに乾杯をして飲み干すのを繰り返します。こういうペースに巻き込まれてしまうと、ただでさえ慣れないベトナム出張で緊張や疲れが溜まっている身体ということもあり、「普段ならこの程度の量なら大丈夫なのに……」ということにもなりかねません。
そうは言っても、ベトナム人同士の飲み会でも酔いつぶれることもあると聞きます。そのような場合には翌日に電話をかけ、「今日は大丈夫か?」とフォローをすることがありますが、あくまでも友人同士や身内同士のものと思っておくほうが賢明です。ベトナムでは「男だったら飲んで当たり前」「強い男なら酒も強い」という理屈が通ることもしばしばありますので、ビジネスシーンでの飲み会には十分ご注意ください。
日系飲料メーカーにとってのビジネスチャンスも十分ある
このようなビール天国ですので、当然、外国メーカーも参入を図っています。レストランを見渡すと、ベトナム系のビール以外では「ハイネケン」や「タイガービール」が好まれているようです。そして最近では「サッポロ」や「アサヒ」といった日系ブランドも目にするようになりました。ホーチミンでの展開を皮切りにハノイでも取り扱う店舗が増え、日本人には懐かしい味を楽しめるようになりました。
メーカーの指導も行き届いているのか、日本流にキンキンに冷えた状態で出てくるのもうれしい限りです。特にサッポロビールは、ベトナム人にとっても、日本のビールということで興味がある上に、メーカーロゴの星のマークがベトナムの国旗に通ずるところもあり、よりいっそう親近感がわくようです。
また、日系メーカーのウイスキー、日本酒、焼酎などの商品も現地で入手できるようになってきました。また、参入のチャンスをうかがっている企業の話もよく耳にします。しかし、「A社のウイスキーは比較的目にするが、B社のウイスキーはそれほどでもない」「CやDの日本酒の銘柄はどのお店に行っても目にするが、それ以外の銘柄はほとんど見かけない」といった偏りが多いように感じます。実務としての通関作業や品質を保持したままの輸送を考えるとなかなか簡単にはいかないのでしょうが、結局はベトナム国内での仕入元がいくつかに絞られているといった事情があるようです。
そう考えると、まだまだ市場開拓を行うビジネスチャンスがあるように感じます。ベトナム現地で醸造を行っている日系メーカーもあるほどですので、ベトナムでのアルコールビジネスは潜在的な可能性を秘めているのでしょう。ベトナム現地で日本のアルコールも楽しむ者としては、日本の銘柄がこれからも増えていくことを心待ちにしているところです。
- 古川 浩規
- インフォクラスター
- 内閣府及び文部科学省で科学技術行政等に従事したのち、平成20年に株式会社インフォクラスター、平成22年にJapan Computer Software Co. Ltd.(ベトナム・ダナン市)を設立。情報セキュリティコンサルテーション、業務系システム構築、オフショア開発を手掛けるほか、日系企業のベトナム進出に際して情報システム構築や情報セキュリティ教育等を行っている。資格等:国立大学法人 電気通信大学 非常勤講師、日本セキュリティ・マネジメント学会 正会員、情報セキュリティアドミニストレータ、財団法人 日本・ベトナム文化交流協会 理事