UI/UXの発想
もう1つ、エンジニアが変化を意識する必要のある事柄が、アーティストという言葉に沿う形での「UI/UX」だ。
2014年に登場した最も分かりやすい例が、ソフトバンクが発売したロボット「Pepper」だ。IBMはソフトバンクと共同でPepper向けアプリケーションを開発。今後、銀行などでの顧客に投資信託などの金融商品を説明するなど、さまざまな場面にPepperを活用する考えだ。
IBMの担当エンジニアは「ロボットは疲れない」とPepper活用の利点について冗談混じりに話していた。人口減少による人手不足解消という意味合いでも、面白い発想だ。
エンジニアでこそないが、いわば「社長 as アーティスト」と言ったところだろう。ソフトバンク孫正義氏が、新時代のユーザーインターフェースを見出し、実現のための一歩を踏み出した。同氏が持つ、独特の感性を新たに示した例と言える。
UI/UX重視の流れを示す一端が、大手ベンダーの投資状況からもうかがえる。
IBMは2014年3月から、東京やインド、ニューヨーク世界10カ所にIBM Interactive Experience Labを開設している。データ活用やデザインを通じ、さまざまな分野にまたがる専門家とともに新たなエクスペリエンスのモデルを創造するにあたり、1000人の社員を採用すると発表した。「ビジネス戦略とユーザーエクスペリエンスのデザインの間には、もはや明確な区別はない」というのがIBMの見解だ。
Inforは、Hook&Loopというクリエィティブエージェンシーを2012年から立ち上げ「ユーザー体験の向上」に注力している。これまでデザインなどが後回しにされる傾向のあった、BtoBの領域であっても機能性ではなく、「体験価値」を重視しているためだ。ソフトを使う上で「生産性」「エラーを減らす」「ソフトの習得時間の低減」の3つの基準に対応できているかを指標に活動しているという。
SAPは「デザインシンキング」、シトリックスも「デザイン指向」という表現でUI/UXの重要性を語っている。
背景には、エンタープライズでの利用デバイスのモバイル化、使用ユーザーの増加、アプリケーション開発プロセスの単純化などが考えられる。
エンタープライズでの利用デバイスのモバイル化や使用ユーザーの増加とは、一部のオフィスワーカー向けのアプリケーションが、これまで以上に工場や店舗などで使われ始めていることを意味する。
工場や店舗などでは、個別の業務に合わせ、専門性の高い情報処理が求められるため、すばやく操作できるUI/UXは必須だ。
ここまで見てきた通り、エンジニアの取り巻く環境は大きく変わりつつある。もちろん、インフラを含めたシステム基盤、運用、オープン系、メインフレーム、データベース、組み込み系など、IT系エンジニアにもさまざまな特徴がある。それでも、ビジネスの前提条件や外部環境の大局的な変化に、まったく無関係でいられるわけではない。
確実に言えることは、昨年の元日のテーマに取り上げた「モノのインターネット」の進展でも触れたように、農業をはじめ、これまでITとは関わりのなかったさまざまな業種が絡んでくるという意味で、エンジニアの果たす経済的、社会的な役割は時間を追うごとに増えていくということである。