電通グループ初の“テクノロジブティック”として2014年10月に設立した電通ブルー。11月にはスマートロックサービス群「246」を発表するなど、生活に身近な課題を解決するプロダクトを複数考案しているという。なぜ電通からこの企業が生まれたのか。代表取締役社長の吉羽一高氏に聞いた。
事務所は六本木のロアビル
代表取締役社長 吉羽一高氏
電通ブル―があるのは六本木駅にほど近い、クラブやサウナが入居するロアビル。周囲には企業よりも飲食店が多く立ち並ぶ。この場所にオフィスを設置した理由について、吉羽氏は「便利なのはもちろんだが、ここならみんなが飲みに来たついでに訪問してくれるから」と話す。
これが大真面目な回答であると感じるのは、テクノロジを使ってまだ見ぬものを生み出し、新しい事業をつくるため、電通ブルーを設立したという理由そのものだ。バックグラウンドが違うさまざまな人が交流することがイノベーションへの近道という見解をオフィスの場所に反映した。
「変化のスピードが速い事業領域では、即断即決の意思決定が求められる。例えば新しい事業を始めたとき、市場の反響を見てすぐに撤退も可能な、失敗できる環境が必要だった。電通という社員数7000人を超える企業では難しかった」
これまで電通が作ってきた合弁会社や子会社と電通ブルーが違うのは、明確な事業領域の定めを持たないことであり、これは初めての試みという。
ベンチャー以外の企業が新規事業に取り組む際、既存事業とは重ならない事業に取り組むのは難しい。全く知見がない事業よりも既存事業に注力することがセオリーだ。自ら電通ブルーの立ち上げを提案したという吉羽氏は、電通入社前は事業家としての経験をもち、電通内では、新たなテクノロジが出てきた際、それをどうマーケティングに生かすかを考案する駆け込み寺的な役割を担っていたという。
スマートフォンで錠を開ける
電通ブルーがまず発表したのは、スマートロックサービス群「246」だ。246は、スマートフォンでリアルな世界の開け閉めができるプロダクト群の総称という。
その第1弾となるのが「246 Padlock」だ。246 Padlockは、スマートフォンに246のアプリをダウンロードし、246 Padlockを錠前としてスマートフォンを近づけるとBluetooth経由で錠前を開閉できるというもの。アプリは、開閉などの状態をクラウドに送信する。アプリと246 Padlock間は暗号化して通信することでセキュリティを担保できているという。
246 Padlockは通常の南京錠とよりも大きく、本革をあしらい複数色をそろえている。1月から一部企業に先行販売する。
設立後、いち早く製品を発表したのは「ビジネスの置き換えがデジタルに進んできたのはデイスプレイの中のみだったが、ビジネスチェンジの領域が画面の外に出てきており、IoTの領域で実際に製品を(外注ではなく)内製して市場に問い、製造過程や顧客の反応といった知見を得ることが必要と感じたため」と説明する。
246 Padlockなどスマートロックを使うと、物理的なカギを持つ必要がなくなることはもちろん、利用ログが取れ、何時何分に誰がカギを開けたか履歴を確認できるようになる。
この機能を活かし、まずは病院で管理する薬戸棚や企業内で重要書類を扱う際の利用を想定しているという。さらに、ネットワークを経由してカギをほかの人と共有することもできるため、賃貸物件の内見など、今まで人が立ちあう必要があった場面をデジタル化できる可能性があるとした。
スマートロックサービス群「246」のデバイス第1弾モデルとなる「246 Padlock」