現在は、テクノロジの大きな転換期に直面していると感じています。そのような時期には必ず時代の趨勢を素早く見抜き、自らを変容させて新しいパラダイムで成功を収める者と、変化に追従することができずに衰退していく者が生まれます。
本連載の開始にあたって、少し過去を振り返りつつ、今後この場で論じていくことについての意思を表明したいと思います。
大きな転換期にある企業IT
企業で活用するIT技術は弛まず進化を遂げており、これまでにもテクノロジの大きなパラダイムシフトを経験してきました。とりわけ、1990年前半に経験したオープン化とクライアント/サーバコンピューティングへのシフトと2000年以降のインターネットの爆発的な普及は、近年における大きな転換点であったといえます。
こうしたテクノロジの新潮流は、企業における情報システムの開発・展開形態や活用領域に影響を及ぼしただけでなく、企業間の連携や顧客接点のあり方を変革し、新しいビジネスモデルの創造を促してきました。
また、クライアント/サーバ・コンピューティングへの移行をきっかけとして、ERPなどのパッケージソフトウェアの台頭、パソコン1人1台の時代の幕開け、電子メールやグループウェアなどによる情報伝達や情報共有への活用領域の拡大などが起こりました。それから20年が経過した現在は、また大きなテクノロジの転換点に直面している時期といえます。クラウド、モバイル、IoTといったデジタルイノベーションの潮流は、これまでに経験したパラダイムシフトに匹敵する、あるいはそれ以上の影響を企業ITに及ぼそうとしています(図1)。
昨今、ユーザー企業の間で長期的なIT計画を策定しようとする動きやIT部門の役割を見直そうとする動きが活発化していますが、これは、これまでの延長線上の考え方では、将来のビジネスを支えることは困難であるとの認識の表れと言えます。
図1 これまで経験してきた企業ITの変遷
変化にどう対峙するのか
多くのユーザー企業のIT戦略やIT業界の動向を長年客観的な立場から見てきた者として感じるのは、同じ歴史を繰り返すことはないということです。企業経営という観点では、統制(ガバナンス重視)と分権(スピード重視)の戦略や、拡大成長期と安定成熟期、あるいは攻めと守りといった企業姿勢は、振り子のように繰り返されるといいます。
また、ITの世界においても、集中と分散、全体最適と個別最適、垂直統合と水平分散のようなテクノロジパラダイムは何年かごとに再来しているという見方もできます。しかし、実際には全く同じところに帰ってくるのではなく、以前とは違った形で回帰しており、まるで螺旋階段を昇っているかのようです。
例えば、ホスト/端末の集中型のシステムは、クライアント/サーバ型という分散型に移行し、その後ウェブとクラウドによって再び集中型を指向していますが、以前の集中型とは接続形態も利用形態も大きく異なります。つまり、変わらないものはどこにもなく、同じ歴史を繰り返すこともないのです。