ビジネス戦略へ踏み出せない現実
それでは、従来型機能の業務負荷を軽減して、その代わりにどのような役割の担っていこうとしているのでしょうか。今後に向けて拡大が見込まれるのは「ビジネスモデル(ビジネス戦略)の開発・改良」「ビジネスイノベーションの促進」「新規市場参入のための戦略・技術の検討」など「ビジネス戦略」に関わる役割です。現状では、これらの役割をIT部門が担っている企業は軒並み15%台程度にとどまっていますが、将来に担うべき役割と位置づける企業の割合はいずれもわずかながら上昇しています。
一部とはいえ、攻めの組織に転じたいと考えるIT部門の責任者が存在することを物語っているといえます。しかし、その増加分は必ずしも大きくありません。

本来であれば、「従来型業務」の省力化を図り、そこで創出された余力(時間)を業務改革やビジネス戦略に直結する業務に振り向けることが期待されるわけですが、「IT改革」および「業務改革」に分類される項目も、現在と今後の選択率はほぼ横ばいであり、役割が拡大すると期待されている「ビジネス戦略」に関わる項目も、「従来型機能」の減少分を埋め合わせるほどではありません。
これは、IT部門の陣容、スキル、意識などさまざまな点において新たな業務を担うには不安があると言わざるを得ないIT部門の現実を表していると言えるのではないでしょうか。
これまでIT部門が果たしてきた「ITインフラと業務システムの企画、開発、運用」という機能は、クラウドの台頭や運用自動化技術の進展などによってコモディティ化が進み成熟段階に向かっているといえます。
そのため、従来型機能の価値は、将来に向けて急速に価値が下がり、代わりに社員の働き方の改革やビジネス戦略への関与がより強く求められることになると考えられます。一部とはいえ、将来に向けてIT部門の役割を「攻め」へと転換すべきだと考える企業が出始めた一方で、将来の役割を明確にイメージできていないIT部門責任者も少なくない状況が伺えます。
もし、IT部門自身が将来の目標を見失っているとすれば、それは役割の縮小よりもむしろ深刻な事態ではないでしょうか。欧米やアジア諸国のIT部門では、モバイル、ビッグデータ、IoTなどを活用したデジタルイノベーションやビジネステクノロジと呼ばれる領域が注目されており、ITをビジネスの最前線で活用する動きが活発化しています。国内企業がグローバル競争に脱落しないためにも、IT部門の「攻めの戦略」への転換が求められます。
- 内山 悟志
- アイ・ティ・アール 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
- 大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、大手ユーザー企業のIT戦略立案のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。最近の分析レポートに「2015年に注目すべき10のIT戦略テーマ― テクノロジの大転換の先を見据えて」「会議改革はなぜ進まないのか― 効率化の追求を超えて会議そのもの意義を再考する」などがある。