2016年1月からスタートするマイナンバー(社会保障と税の共通番号)制度。事業者にとってはセキュリティ対策をはじめ適正な取り扱いが求められることから、信頼できる外部事業者に一括して委託したいというニーズが少なくないはず。そんなニーズに対応したビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)サービスは果たしてどこまで広がるか。
マイナンバー対応のBPOが求められる背景
マイナンバー制度への対応に必要な業務をワンストップで代行するBPOサービスが、大手ITベンダーなどから相次いで提供されている。7月6日には、日立製作所と日立システムズが、これまで展開してきたコンサルティングやシステム改修、運用支援などのマイナンバー対応関連ソリューションに、新たにBPOサービスを加えて提供を開始した。
日立のBPOサービスは、日立グループにおけるマイナンバー制度対応のノウハウを活用し、従業員などのマイナンバー収集や登録から廃棄までの管理、法定調書の印刷代行、ヘルプデスクまで幅広い事業者のニーズに対応。これにより、事業者はマイナンバーの管理、運用体制、設備を最小限にできるうえ、現行業務やシステムを大きく変えることなく、リーズナブルなコストで日立グループと同等のセキュアなマイナンバー管理、運用体制を実現できるとしている(関連記事参照)。
日立グループの事業者向けマイナンバー対応関連ソリューション
そもそもマイナンバー制度への対応に向けて、ベンダー各社がなぜBPOサービスを提供しているのか。日立の説明をもとにその背景を以下に記しておこう。
マイナンバー制度の開始に伴い、企業や各種団体といった事業者では、その業種や規模に関わらず、源泉所得税や雇用保険などに関する申告書や法定調書を提供する場合などに、個人番号や法人番号を収集、登録して帳票に記載する必要がある。こうした不可欠な作業とともに、マイナンバーは「特定個人情報」に該当し、事業者はその適正な取り扱いに関する安全管理措置義務を負うため、組織体制、人材教育、セキュリティなど、さまざまな観点から対策を講じることが求められている。
このため、内部に担当者を置いていない中堅中小規模の事業者のみならず、大規模事業者も膨大な量の情報を新たに取り扱うことやサイバー攻撃への対応を課題として捉えており、マイナンバー制度への対応を信頼できる外部事業者に一括して委託したいというニーズが高まってきているというわけだ。
中小規模の事業者に高まるBPOの潜在需要
では、マイナンバー制度への対応に向けて、BPOは果たしてどこまで広がるか。筆者がこの点に興味を抱くのは、将来的にこうした仕組みもクラウド環境のもとで処理されるようになると想定すると、BPOがその最初のステップになると考えるからだ。
そこで、日立の発表会見で、マイナンバー制度への対応においてBPOサービスを利用する事業者は全体の何割ほどになると見ているのかと尋ねてみたところ、「今回のBPOサービスにおける売り上げからみた計画値では、全体の数パーセントの範囲で見ている。ただ、私の感触ではもう少し上振れすると考えている」(日立システムズ クラウド事業推進統括本部クラウドサービス拡販本部長の中田龍二氏)との答えが返ってきた。
1~2割の数値が返ってくるかと想定していたが、そんな程度かというのが筆者の実感だ。中田氏によると、数パーセントとの見立ては、同社が人事給与システムを提供している顧客の感触をもとに割り出したものだという。
しかし、先ほど述べた背景の話にもあるように、とりわけ中小規模の事業者にとっては、それこそリーズナブルなコストで信頼できる外部事業者に一括して委託できる環境が整えば、需要はもっと高まるのではないか。もしくは人事給与システムのクラウド化とともに、こうしたBPOも促進されるのかもしれない。この動きはマイナンバーが適用された後も変化していく可能性が大いにある。注意深く見ておきたい。
日立の会見。右から、日立製作所 情報・通信システム社 公共システム事業部 官公ソリューション第三本部長の藤澤健氏、日立システムズ クラウド事業推進統括本部クラウドサービス拡販本部長の中田龍二氏